新聞記者が帰った後、俺はガンプラ製作に勤しむ刃くんを頬杖をつきながらデスクから見ていた。

「ねー刃くんー」
『んー』
「お昼ご飯はサラダうどんでいい?」
『んー』
「温卵も付けようか?」
『んー』
「……」
『んー?』
「シズちゃん死んだって」
『んー』
「好きだ」
『んー』

かっちーん。

「バーチャルネットアイドルタナトスきゅん……」

呟かれた言葉を遮るように刃は次の瞬間拳をふるっていた。

どこにそんな力があるのか、俺の横後ろの壁が拳の形にめこりと凹む。

『…………』

刃は怒りに震えていた。

持っていたガンプラがきしりと握られる。

『その名前を俺の前で言うたぁてめぇ地獄に吹っ飛ぶ勇気があるってことだよな?な?』

俺はにこりと微笑む。触れられたくない話題だってのはこっちも一緒だ。

バーチャルネットアイドルたなとすきゅん。

まだ俺が棚戸三兄弟と会って間もない頃、俺にしては大失態だったが、俺と凉梨達は大ゲンカをしたことがある。

その時の報復というか、なんというか……シズちゃんに罪をなすりつけたのと同じようなノリで、俺は棚戸三兄弟の顔写真と住所をネットに晒してしまったのだ。

16才の女子相手に大人気なかったなぁと今では反省しているのだが晒された棚戸三兄弟の方は未だにそれを根に持っている。

てゆうかその末に激しい言い争いをしてシズちゃんに二人ともボコられて結局痛み分けになったのは今でも酒の肴の思い出話だ。

(師匠……)
(なに?凉梨)
(すみませんでした……)
(……うん。俺も悪かった。晒してごめんね)

という会話があったのは余談。

話を戻そう。晒された情報はというとネットを駆け巡り2Chまで流されて端麗な棚戸三兄弟の容姿も手伝って一夜にして“バーチャルネットアイドルタナトスきゅん”が出来上がった。

ついでにこのネーミングはどこかのやけにスタイリッシュなペンネームの作家が書いた「パラダイスなんちゃら」という本から取ってきたらしい(後で俺もこっそり読んだ。なかなか面白い)

『あの事件のせいでどれだけ俺が2Chネラーの怖さを思いしったと思ってやがる……!!』

ストーカーも倍増したらしい。さすがネット。恐ろしい。

俺も使い方を間違えないようにしなくちゃなぁ。

他人事のように話した、それがバーチャルネットアイドルたなとすきゅん。

それでも凉梨のチャットネームはタナトスなのだから。

(案外気に入ってたりして)

『なに笑ってやがる臨也!!』

あ。本気で怒ってる。



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