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:8:(葉桜 初)




その日も、いつも通りに練習を終えたとこだった。

ポツッ


「ん?」


頬にあたった冷たさに、小都は顔を空に向けた。


ポツッ  


ポツポツッ


「ありゃ、雨降ってきた」


「げっ!マジっすか!?」

「おーい!雨降ってきたぞー!片付け急げぇ!!」


小都が言った言葉に、後輩たちがわらわらと散って片付けを始めた。




「「「お疲れ様っしたぁ!」」」

「はーい、お疲れ様!!」

部活を終えて帰って行く部員達に小都は日誌を書きながら応える。

「あ」

聞きなれた声にそちらを振り向くと、泉が間抜け面で立っていた。


「泉くん、どうしたの?間抜け面も可愛いから安心なさい」

「んなのはどうでもいいです!今日、傘忘れたんすよ」

「あらー」


外を見ると、雨はかなり降ってきている。


「しゃーねー、走ってくか」

「ん、コレ」


頭をかく泉に、小都は若草色の折り畳み傘を差し出した。


「…え?」

「いや、“え?”じゃなくて、コレ貸すから、使いなよ」

「でも、先輩は?」

「私はロッカーにもう1本あるし」


そう言って、小都は部室の隅にある自分のロッカーを指差した。


「…いいんすか?」

「どーぞどーぞ。あ、なんなら泉くんが置き傘使う?」

「は?」

「ピンクの生地に白いレースが付いた雨晴れ兼用のロリ系で超ラブリーなおニューのやつなんだけどっ!!」

「結構です!!こっちのを使わせてもらいますっ!!」


小都が言ったことに泉は慌てて折り畳み傘を受け取った。


「遠慮しなくていいのにぃ」

「してませんっ」


残念そうにする小都に、泉は溜め息をついた。


「んじゃ、コレ借りてきます。ありがとうございます」

「はーい。返すのはいつでもいいから」

「はい。お疲れ様です」

「お疲れ様ぁ」


泉を見送り、一人、また一人と部員が部室を後にした。






「で、なんであんたは帰ってないの?」

「んあ?」

日誌を書き終えて部室から出た小都の視線の先には、鞄を持っているにも関わらず、その場に座り込んでいる浜田がいた。


「あんた泉くん達と帰ったよね?」

「あー…泉が持ってた傘、お前んだろ?」

「…まぁ、うん」

「なんで傘一つしか持ってないくせに他のやつに貸すかなぁ」

「…セクハラ?」

「なんでそこでセクハラ!?」

「だってなんであんたそんな私のプライベート的な情報知ってんのよ!」

「お前だって泉限定でプライベート情報持ってんじゃんかよ!」

「失礼な!私が知ってるのは身体測定とスポーツテストの結果と家族構成とペットがいるかいないかだけよ!!」

「“だけ”じゃねぇよ!!しかも前半の2つなんだよ!!明らか変態じゃねーか!!」

「マネージャーが皆の身長と体重、その他諸々知ってちゃいけないの!?」

「あ、ぃや、いけなくはないけど…」


「ただ泉くんのは記録ファイルを見なくても数値を覚えているってだけよ」


「お前、自分がおかしいっていい加減気付け…」


浜田は大きく溜め息をついた。


「んで、話戻すけど、お前泉に傘貸しただろ」

「だからなんなのよ、部員に風邪でもひかれちゃ困るでしょ!」

「だーから、ん!」

「へ?」


浜田の手にはビニール傘が握られていた。


「…あんたはト○ロのカンちゃんか!」

「あーうるさい。もういいよ、もうカンちゃんでもなんでもいいから帰ろうぜ。お前と話すの疲れる」

「それはどういう意味かな浜田くん、明日から学校に来れなくなっちゃうぞ☆」

「すいません。」

二人は傘を差して歩き出した。

「まぁ、ようはアレよ」

「んー?」


小都は視線をそのままに返事をした。


「部員も、マネージャーに風邪でもひかれたら困るってことだ」

「………そう、ですか。それはどうも。でも浜田のくせにそんなことを言うなんて、野球でいったらデッドボールだよ」

「はぁ?なんだそりゃ」

「なんかイタイ…」

「お前ほんと失礼なやつだな!!」


その翌日、浜田は先輩から一日“カンちゃん”と呼ばれ続けた。






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