:4:泉視点(葉桜 初)
4:泉視点
―――春
小学校を卒業した俺はそのまま公立の中学に入学した。
少し大きめの学ランという名の制服は、自分を少しだけ大人にしてくれたような気がして、なんだかくすぐったかった。
春休み中はこの学ランを着るのも楽しみだったが、今実際に着てみると、小学校時代にラフな格好に慣れすぎたせいか、少々窮屈に感じた。
それでも襟元の第一ボタンは絞めなくてはいけない。
兄貴曰く、2年生では第一ボタンまで、3年生でやっと第二ボタンまで外せることができるらしい。
それから、目上には必ず“先輩”をつける。
これは男子の、中学で上手に生活していくための暗黙のルールなんだとか。
2、3日前に頼んでもいないに力説された。
まぁ俺も、そうそう先輩方に目をつけられるようなことはしない。
そうだ…先輩といえば…
アイツも、ここにいるんだ…。
俺の頭にはとある人物が思い浮かんだ。
いつの頃からか、学校が終わってから一緒に遊ぶようになったアイツ。
出会いなんて…とうに忘れた。
いつのまにか出会って、いつのまにか一緒にいるようになって…。
そういえば、野球を教えてくれたのもアイツだったか…。
一緒にやった遊びといったら、キャッチボールくらいしか記憶にない。
そんなアイツは一つ年上で、俺より1年早くここに来た。
アイツは中学にいって野球部に入ったらしく、ここ1年間はめっきり会う機会が減っていた。
俺より年上のくせに何故かアホで、バカじゃねぇか?って思うことが多いアイツ。
どうしてっかな…?
相変わらず、バカでアホなことをやっているんだろうか。
それとも、中学に入ったことで、少しは大人っぽくなっただろうか。
この1年間で、変わってしまっただろうか…。
まったくといって予想がつかない。
ここに、俺が知らないアイツがいるかもしれない…。
…って、なんだこのネガティブ思考は!!
アイツが変わったって、別に俺にはなんの関係もないじゃないか!
「おい、泉。お前帰らねーの?」
声を掛けられてハッと我に返った。
今俺がいるのは教室で、自分の席にただぼーっと座っていた。
いつのまにか帰りの会…ホームルームは終わっていたらしい。
ちなみに声を掛けてきたのは、小学校が同じのクラスメイト。
「あー…今日から部活の仮入部期間だろ?それ行こうと思って」
「え、なに?何に入んの?」
「たぶん…野球部」
「運動部かぁ。んま、頑張れよ。じゃな!」
「おー」
お互い軽く手を振って別れた。
俺が野球部に入る理由…。
もちろん、野球が好きだってのが第一だ。
でも、アイツも少しは影響してる…かな。
なんだかんだ言って、一応俺はアイツを尊敬してる…と思う、多分。
野球を教えてくれたことは、もちろんありがたいと思ってるし、それに、野球をしている時のアイツの顔は本当に楽しそうで、見ているこっちまでわくわくさせる。
アイツとまた野球ができる。
そう思うだけで、グラウンドに向かう俺の足は軽い。
野球部らしき人達の集まりはすぐに見つけることができた。
近づくたびに一人一人の姿がはっきりしていく。
そんな中、俺はアイツの横顔を見つけた。
久しぶりに見たアイツは背が伸びてて、顔も少しだけ変わって見えた。
こちらに気付いたのか、大きく手を振ってきた。
「泉ー!!久しぶりー!!」
あぁ、なんだ。
全然変わってねーじゃん、そのバカみたいなアホ面。
俺は緩みそうになる口に必死で抵抗した。
おっと、中学ではこう呼ばなきゃいけないんだったか…
「久しぶりですね、浜田先輩」
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