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:10:(柊海)





この地域で行われる大きな祭り。

小さな神社で行われる祭りは、古くから住民に慕われており、盆踊りや花火も打ち上げられるため毎年多くの人が訪れる。

毎年野球部ではこの祭りの設置を体力作りと地域参加の名目で手伝っていて、今年も朝から汗だくで走りまわっている。

準備が終われば自由行動となり、各々祭りを楽しむ。

私もその一人で、クラスの仲間たちと祭りを回る予定だ。

その中には野球部も数人含まれているため、自分が汗くさくても多少気が楽になる。






お気に入りの浴衣に身をつつみ、みんなとの集合場所に急ぐ。


カランコロン…


(あぁ〜いいねーこの音。風情を感じるよ。)


着飾った女の子達が隣を走っていく。

その光景を微笑ましく見ていると、後ろから呼びかけられた。


「よ!」

「おつー。暑いんだから、ゆっくりくれ
ばいいのに。」


額にできた汗でかけてきたことがすぐにわかった。

浜田は「腹減ったしなー」と言って笑った。


「ゴチになりますぜ旦那。」

「…自分の食いもんぐらい自分で確保しろよな。」


浜田がじとっとした目で見てくる。

去年は足りなくてゴチソウ(脅迫)になったからなーまだ根に持ってんのか。


「そういや、やけに静かじゃん。」

「え?」

「泉に浴衣を着させようと奮闘してるのかと。」


ふふふふふふふふ。


急に笑い出した私に浜田がビクつく。失礼な。


「見よ、ぬかりはない。」


巾着から出されたデジカメ画面を浜田に見せる。

浜田はその画面を見ると、何故だか合掌した。


「私に不可能という文字はないのだよ浜田君。」


画面に映るのは可愛く髪の毛をアップし花飾りをつけ、襟元に手を添える男の娘。

顔を真っ赤にさせてそっぽを向いているが、泉だとすぐわかる。


「わたし的にオススメはこっちだなー。」


2枚目には斜め上から撮ったと思われる上目遣いの写真。

「これは素晴らしい。上半期の上位作品だよ。」と頬を染める私。


「…もはや犯罪だ。すぐに警察に行け。」

「泉の可愛さに心奪われましたってか?被害届けだわ。」


私としては至極真面目に答えたつもりだったが、浜田は遠い目をして「…うん。」と答えた。

なーんて浜田の考えることはすぐわかるさ。


「脅迫罪じゃないからねー浜田君。」

「すいません許してください。」


たわいもない話をしていると、神社から軽やかな音頭が聞こえてきた。


ウキウキと心が踊る。


「食べ物決まった?」

「ある程度な!」


にやりとした浜田と目が合う。


「そんじゃ、行きますか!!」

「楽しみますか!!」





……と、活きこんだ数分前…プライスレス。

はいはい、わかってますよー
大事なときに迷子になるのが私だよっ!!


(だいたいこんなに人が多いのが悪いんだよなー足踏まれるわ、押し返されるわ…)


と、悪態をつくが、ここで待っていればお迎えがくるので大人しく待つとする。

屋台に並ぶ同い年ぐらいの子どもたち。

知らない顔ぶれは隣の中学かもしれない。


(来年は中3。こんなにのんびりとしてらんない。)


高校受験。

まだどこに行くのかも何も決まってない。

そういえば、進路指導の紙を新学期に提出だったはずだ。


(大会出場に受験勉強。…浜田はどこ行くんだろ…馬鹿だからな…考えてないだろうな。)


友達と同じ学校に行けば楽しいこと間違いなしだ。

もしかしたら、浜田はスポーツ推薦をとるかもしれない。


(なーんか、もやもやしてきちゃったなぁ。)


しばらくの間、ボーとしていると「おーい!」と手を振っている浜田を発見した。


(………本当、なんでなんだろうねー)


近くにきた浜田は私にも聞こえるようにため息をついた。


「どーして歩いて10分たらずで迷子になるかお前は。」


そう言って、いつも通りに手を差し出される。

迷いもなく出された手にモヤモヤした気持ちはなく、むしろ心地よい。

この手に助けられていることは私が思っている以上に多い。

中学生になってまで手なんて繋がないけど、私たちは微笑ましい関係ではない。

ただの腐れ縁。

たまたまクラスメイトで、たまたま野球部で、たまたま気が合う程度で…

なんだこれ変な気分。


「すいませんねー」


そう言って、浜田の手を繋いで横に並ぶ。


「感情がこもってないんだよなぁ。」

「何か問題でも?」

「いえ、ありません!!」


焦ったように歩き出す浜田にちょっと笑いながらついていく。

(――こうしていられるのはいつまでか)

たまーに。
本当にたまーに考える。


(私と浜田の距離感って近すぎるんだよな…)


ちらっと浜田を見ると、屋台に目がいっていてどれを狙っているのかすぐわかる。


(あ…)


ふと、自分が浜田を見上げていることに気がつく。

今、繋いでいるこの手も去年とは全く違う。

浜田のピッチングもホーム毎日見ているはずなのに、先ほどとは違う違和感を感じる。


(なんか、ゴツゴツしてる。男の人の手って、感じで…)


「どうした?」


振り向いた浜田に自分が見すぎていたことに気がつく。


「いや…なんでもない。」


なにか急に恥ずかしくなり浜田から視線をずらすが、心臓がやけにうるさかった。

私らしくないと思いつつ、だけど普段から思いもしなかったことに戸惑いを覚える。

近すぎてまるで感じなかった。

新しい事実だと思ってもいいほどだ。


浜田は『男』だ。


男として見たことがなかったから動揺が激しい。

こんなこと言ったら怒られるだろうけど…。

このことを誤魔化そうと言い訳を考えるが、上手い言葉が見つからない。


(あれ…?)


普段なら、何か言ってきそうな浜田が何も言ってこない。

まさか、空気を読んだのか!?と思い、顔を上げる。

が…


「…っ」


ちょっ…

声が出なかった。


「馬鹿っ!!」

「おま、馬鹿はないだろ馬鹿は!!」


浜田を見ると、顔をゆでダコのようして口を抑えている。

どんなに隠したって、耳やら首やら見えてしまっている。

今の状態を表現するならばパニックだ。

ダブルパニックだ!!


「だって!浜田が顔、赤くするから!!」

「最初に真っ赤だったのはお前だろう!」

「〜〜!!いけないのは浜田だもん!!」


手を繋いだまま、ずんずんと前に進む。

これ以上、顔を見られてたまるか。


「ちょ、ちょっと待てって!この状態で集合場所にいけねぇって。」


確かにこの顔のまま友達に会うわけにはいかない。

端に寄ってお互いに熱を冷ます。

こんな状態初めてで、しかも浜田相手だということに今まで感じたことのない焦りが活発になる。


「あのさ…」


会話がなくなり、熱が取れてきたときに浜田が小さい声で言った。


「…手、何も考えずに繋いでごめん。」


浜田を見るとただでさえ頼りない顔が更に頼りなくなっていた。

(あ、そうか…)

何か心にストンと落ちるものがあった。


「ううん。私もごめん。」


浜田も同じことを考えていたのか。

妙な焦りは自分だけでなかったことに安堵した。


「ねぇえ?」

「なに?」


浜田が向いたとき、ちょっと背伸びして浜田に囁いた。

もしかしたら、この先は男と女の壁ができるかもしれない。

ならば今しかチャンスがないように思えた。


「これからもよろしく。浜田。」

「!!」


今までのワガママに付き合ってくれたこと、友達でいてくれること。

なにより、心の支えになってくれていること。

これからも、一緒に成長していけるように。

たくさんの感謝と小さな希望を一言で。


(めっちゃ恥ずかしいぞ、これ。…もう行っちゃえ!!)


私は浜田の手を引いて人ごみの中に紛れ込む。

恥ずかしさでパンクしそうだ。


「はは…おう。」


背中に届いた確かな声に心が和んだ。




でも、私は知らなかった。



返事をしたときの浜田の複雑な表情を――

私は知らない。







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