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:1:栄口視点(柊海)





1.栄口視点





ここは第二グラウンド。いつものように浜田をまじえての練習が始まろうとしていた。


「はーまーだぁあああ!!!」

「うわー来ちゃった…」


まだ比較的静かなグランドに百枝でも篠岡でもない女の子の声が響き渡った。

普段、第二グラウンドに女の子が来ること自体が珍しく、部員は何事かと声のする方向を見た。

だが、そこには誰の姿もなく…

「泉クン、どうしたの?」

(((いつの間に!?)))


部員は訳がわからないというように後ろを振り向く。

そこには色素の薄いセミロングの髪を持った女子がにこやかに泉の後ろに立っていた。


「ちわーすっ!!!」

「あの泉が…」

「あの泉が超腰低くなってる!!」


ものすごい勢いでお辞儀をする泉に部員は目を見開いた。


「相変わらず可愛い子やねぇアンタは。」

「…ははっ…どうも…」

(疲れていらっしゃるぅー!!)


普段、そんなに疲れた感じを見せない泉に部員は更に困惑する。


「きゃー『おこと』じゃん!!」


浜田が語尾にハートがつきそうな勢いで走ってくるが、女の子はそれを避け、更に浜田に足をかけた。

勢いがよかったために浜田は顔面から地面にスライディングする。

その瞬間、部員は顔を蒼白にする。

しかし、田島は「浜田すげー!」と叫び、三橋も「は、はまちゃ…痛くないのかな。」と呟いた。


「え、おとこ?」

「馬鹿っ!!おま、なんつーことをぉ!!」


浜田の発言を聞き間違えたのか、水谷とんでもないことを口にする。

泉が慌てて水谷の口を塞ぐが、時すでに遅く…


「君…名前は?」


女の子が柔かい笑顔をして水谷の前に移動する。

水谷もその笑顔につられて、笑顔で返す。


「みずた『クソレ!なに正直に答えてんだ!』

「イズミ。」

「すんません。本当、ごめんなさい。」


素直に答える水谷に泉が後頭部を叩く。

が、水谷の発言を阻止した後、血相を変え、土下座しそうな勢いで謝る。

女の子は泉から視線を水谷に戻す。


「そっかぁ、水谷君か。」


女の子はにこにこ笑って、水谷の名を呼んだ。


「オレ、最後まで名前言ってなっ…」

「やめるんだ!これ以上、何も言ってはならないっ!」

「泉くーん。」

「久しぶりにあって、感激しすぎてるっす。」


いや、マジでと付け加える泉になんとも言えなくなる部員。

浜田を一蹴し、泉がここまで下手に出てしまうこの女の子は何者なんだと部員は退きそうになってしまう。


「そうだよねー。やっぱり可愛いねぇ、泉ちゃんは。」

「…は、はははは…」


モモカンのようではないけれど、少し背の高い泉の頭を撫でる様は微笑ましいかぎりだが、泉は恐怖というかなんとも言えない顔で乾いた笑みを返す。


「ちょっとー、彼氏放ってイチャつくのやめてもらいません?」


復活した浜田が顔をさすりながら、つまらなそうに女の子―『小都』の後ろから現れた。



(((え、彼女?…浜田さん、彼女いたんだ!!)))

「うっさいなぁ。元はと言えば、浜田がいけないんでしょ?」と小都がムスっとして答え、ちらりと浜田を見る。


「え、何!?わざわざ俺のために来てくれたの?〜〜〜ちょーうれしいぃい!!」


浜田が感激して小都の首筋に抱きつく。

浜田の腕の中に納まった小都は予想以上に小さく見えた。


「ちょっと!抱きつかないでよ!!は、恥ずかしい…」


小都は驚いたように目をパチクリした後、浜田の腕の中であたふたし、そのまま顔を両手で隠してしまった。

隠しきれていない耳はすごく真っ赤になっている。

それを見た西浦ーぜもつられて頬を赤くした。


(っていうか、オレたち、この光景を見ていていいのだろうか。それに結局、この人は何をしにきたんだろう。)


栄口は苦笑して泉のほうを向いた。

そして、すぐに考えを中止させる。


(あれ、泉、ちょっと複雑そう…え、え?これなに?…まさか、昼ドラだったりした!?)


複雑そうに二人を眺める泉に栄口は思考をめぐらせる。


(そういえば、浜田さんと同じ中学だったんだよね…そのときの知り合いで…ということは、そこで『何か』あったんだな、あの顔は。)


泉を見ていた栄口に気付いた泉は自分が見られていたことを知り、困ったように笑った。

そして、口元に人差し指を持ってきて、『内緒な』というような仕草をした。


(あ、これは…)


栄口はこれ以上詮索したらいけないなと思い、頷いた。


(って、ちょっと待ってよ。結局…あの人は誰なんだ?)


未だ名前すらわかっていない彼女に栄口は再び首を傾げた。






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