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可愛い≒褒め言葉(雷蔵)




「らーいぞーってい………何やってんの?」

障子を開ければ、そこには上半身裸で、しかも汗をかいて寝転んでいる奴がいました。


……ていうかいる。現在進行形で。




「あっ、弥江。見て分かんない?」



頭だけを持ち上げヘラリと笑う雷蔵に近寄って行き、脇腹を軽く蹴ってやれば「う゛っ」という低くくぐもった声が出た。


「何すんのさ、弥江」

「いや、ちょっと蹴りたくなったから」

「何で!?」



今も脇腹を押さえて固まったように笑っている顔をしている雷蔵を見ると、何ていうか、こう、遊び心を擽られるんだよなぁ。今度は擽ってやろうかと思っていれば、その前に起き上がろうとしてきたので馬乗りになってそれを阻止する。


「ちょっと弥江、重いんだけど」

「だろうね。で、何してたの?」


何なんだよ、という視線も笑顔で流し再度尋ねる。


「……はぁ。ちょっと鍛練をしてたんだよ。簡単な腹筋とか腕立て伏せとかね」


疲れたようにため息をつきながらも答えてくれる雷蔵はやっぱりいい奴だ。


「休みの日なのにか?」

「毎日やってるからね、一日でも休むと体が何だか気持ち悪くて」

「ふーん、そんなもんなんだ」

「そんなもんだよ」


確かに言われてみれば、雷蔵が鍛練をしてない日って実習とか忍務がある日だけだよなぁ、思いながら今俺の下になっている体に視線をずらす。そこには普段の柔らかい笑顔には似ても似つかないようなしっかりした筋肉がついていた。俺は筋肉が付きにくいのか、いくら鍛えても厚みの増さない自分の腹筋と比べるように雷蔵の腹筋をペタペタ触る。ツッ、と割れ目を指でなぞってみたら雷蔵が軽く身じろぎした。

「くすぐったいよ。あのさ、そんなに見られたり触られたりすると恥ずかしいんだけど…」

「大丈夫。俺別にそっちの気はないから、今は」

「今は!?」


恥じらうような雷蔵に真顔で答えると相手は目を大きく開いて驚いた。いいなぁこういう反応。八とか兵助とか三郎だったら「あはは、それもそうだな」とか「俺、弥江ならいいよ」とか「なんだ、残念だ」とか言って逆に俺が困らせられるんだもん。三郎にいたってはニヤリって嫌ぁな笑いつきで。



「雷蔵は可愛いなぁ」

「は?弥江、頭大丈夫?」

「……」



前言撤回。一番酷いのは雷蔵でした。大丈夫だよと言って腹筋に一発パンチを入れたらペチッという音がした。

「あーぁ、折角褒めてあげたのになぁ」

「えっ今のって褒めてるつもりだったの?」

「うん」

ニッコリ笑って頷けばあからさまに呆れたようにため息をつかれる。なんなんだよ、その哀れんだような感じは。

「弥江ってさ、時々凄くバカだよね」

「失礼だな」

「だって僕男だよ?可愛いなんて言われて嬉しいと思う?」

顔を横に向け視線だけで俺を見てくる姿は拗ねた子供みたいで、また可愛いなって思ってしまった。


「でもなぁ、可愛いって思っちゃったんだもん」

「だもん、じゃないの。じゃあ弥江は可愛いなんて言われても嫌じゃないの?」


襟元をグッと引かれて雷蔵に覆い被さるような体勢にさせられる。慌てて頭の両側に手をついて体を支えたら雷蔵の顔が急に近づいて、今度は俺が驚く番だった。

「えっ、雷蔵いきなり何すんの!?」

「ふふっ、驚いた弥江可愛いね」

「んなっ……」


可愛いと言われ、自分からやったくせに!という思いが頭を過ぎった。雷蔵がそんな俺を知ってか知らずかまた笑う。

「ね、可愛いなんて褒められても嬉しくないだろ?」

「うん。確かに」


実際にやられてみて良く分かった。雷蔵の言った通り、可愛いなんて嬉しくない。

「分かってくれて嬉しいよ。ごめんね、いきなりで驚いたでしょ」


こうした方が早いと思ったからさ、と言って雷蔵は優しく笑うと俺の頭を撫でてくれた。……ごめん雷蔵、やっぱりお前……





「雷蔵かわいー!!」

「ぅわっ!ちょっと弥江、今分かってくれたんじゃなかったの!?」



思いきり雷蔵を抱きしめるとやっぱりちょっと汗の臭いがした。でも今は汗も引いてるみたいだしそんなこと気にしない。してやらない。







(可愛いもんは可愛いんだから仕方ないよね!)








俺と雷蔵を呼びにきた三郎に引き離されるのは時間の問題。


あきゅろす。
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