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体温と鼓動(八左ヱ門)















「はーちー、起きてたの?」

「……いや、起こされたんだけど」

「誰に」

「弥江に」








今俺はハチの布団の中に潜り込んでいる真っ最中だ。うっすら目を開けたハチはまだ眠たそうにしながら俺を見てくる。


「ハチ、腕伸ばして」

「は?こう、か?」

「んー、違う」

ポンポンとハチの左肩を叩けば、天井に向けて腕を伸ばしたのでそれをグイッと両手で引っ張って自分の頭の下へ置く。思ったより硬くて寝心地が悪いので何度か位置を変えて頭を乗せてたら頭をグイッと腕に押し付けられた。

「ぅっ……何すんだよー」

「それはこっちの台詞だろ。さっきから髪があたってくすぐったいんだよ」


そう言いつつハチはゆっくり俺の髪を梳いてくる。その手が気持ち良くて目を閉じたら頬をつままれた。

「こーら、何勝手に寝ようとしてんだ」

「んー?…んー」

「弥江ー言葉になってな…んむっ」



段々眠気が襲ってきて返事するのが面倒くさくなってきたのでハチの口を手で塞いでやる。が、その手は直ぐにハチの手に外されてしまった。


「おい、せめて理由くらい話せって」


頭の上から聞こえてくる声に渋々目を開ける。思ったより近いハチの目に俺が写ってるのに気付いてついつい頬が緩んだ。


「俺さ、昨日居なかっただろ?」

「ああ、委員会だって言ってたな」

「それ、本当は嘘でさ、実際は学園長の“おつかい”に行ってたんだ」


上学年になるにつれ頼まれる“おつかい”の量は減る替わりに難易度は下級生に比べ格段にあがる。それをハチも知っているから「お疲れ様」と頭を撫でてくれた。

「でも自分の布団で寝ればいいだろ?わざわざ狭い方選ばなくても」

もっともなその意見に俺は軽く頷く。

「だって布団敷くの面倒なんだもん」

「いや、もんじゃねーよ」

「それにさ、今回のおつかいは俺一人でさ…いつも誰かと一緒だったから良かったんだけど………」

「……人恋しくなったってやつか」

「うん、そう」


だから、少しだけ…そう呟きながらハチの背中に手を回して抱きついた。俺のとは全然違う筋肉質な胸板に少しだけ、本当に少しだけ嫉妬したけど、伝わってくる熱が嬉しくて頬を擦り寄せる。

「安心したか?」

「安心?」

鼓動の音に耳を澄ませて目を閉じると、ハチが俺の肩をポンポンと叩き始めた。

「人はさ、誰かの心臓の音を聞くと安心するらしいんだ。だから弥江もそうなのかなと思って」

「………うん、そうかも」

「そっか、なら―――。」




優しく響くハチの声と鼓動の音にまた睡魔が押し寄せてきはじめていた俺は、最後の方の言葉を聞き取れなかったけど、なんとなく心が暖かくなるようなこと言われた気がした。




「おやすみ、弥江」







(お前の為に俺の此処は空けといてやるよ)


あきゅろす。
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