もやもやの正体(小平太)
なーんかもやもやするんだよなぁ。こんな日はやっぱり塹壕掘るに限る!!(もやもやしてなくても掘るけどさ)
ってことで、私は午後の授業が終わってからひたすら塹壕を掘り始めた。後ろで長次が何か言ってたけど、今は知らんぷり。
「いけいけどんどーん!」
「わっ、こへ先輩!?」
ところ構わず掘ってたら、急に頭の上から弥江の声がした。顔をあげてみたらやっぱり弥江が私を覗き込んでた。
「よぉ弥江!何してるんだ!?」
「それはこっちの台詞ですよ!こへ先輩こそこんなところに塹壕なんか掘ってどうしたんです。また食満先輩に怒られますよ?」
最近会ってなかったから嬉しくて笑いかけたら困った顔をされてしまった。確かに留には怒られるだろうけど、今は考えなくていいや。怒られたら怒られたってことで!
「何か急にもやもやした気分だったからとにかく塹壕掘ってたんだ!」
「とりあえずって…。何でまたそんなもやもやしたりしたんです?こへ先輩にしては珍しいですね」
弥江に言われてそういえば珍しいなぁと改めて自分でも思う。普段ならこんなことないんだけど…。弥江の“何で?”という質問の答えを私は見つけられないでいた。それどころか今ではもやもやどころか弥江に会えた嬉しさで心がいっぱいだ。
「んー?何でだったんだろうなぁ」
「何ですかソレ。結局先輩も分かんないんじゃないですか」
「うん、そうみたい」
首を傾げて素直に答えたらプッと笑われてしまった。
「でも今はもやもやしてないみたいで良かったじゃないですか。塹壕掘りまくったかいありましたね」
じゃ、僕委員会の仕事がありますので。そう言って笑いながら歩いて行った弥江に私は行ってらっしゃいと苦無を持っている方の手を振る。
「あーぁ、行っちゃた。……なんかまたもやもやしてきたな。よし、いけいけどんどーん!!」
去って行く弥江の背中を見てたら何だかまたもやもやしてきたので私はもう一回塹壕を掘り始めることにした。
(本当このもやもやは何なんだろう。弥江に会って消えたってことは、弥江に聞けば分かるのかな)
結局塹壕を掘っても掘ってもスッキリしなくていたら、弥江の言ってた通り留に怒られてしまった。
「こらっ小平太!何回塹壕を校庭に掘るなって言ったら分かるんだよ!」
「別に良いじゃん、どーせ次の日には無くなってるんだし」
「お前なぁ…誰が塹壕を埋め直してると思ってんだよ…!」
顔に着いた土を拭いながら言い返したらますます留の機嫌は悪くなってしまったらしい。拳を握った右手が小刻みに震えている。短気だなぁと思って横を向いたら、ちょうど廊下の端に弥江の姿を見つけた。私は反射的にそれに向かって走り出す。
「弥江ーー!!」
「ぐぎゃっ!?」
勢いはそのままに抱きしめ(飛び付い)たら弥江から変な声が出て一瞬だけだけど驚いた。でもすぐに私を見て驚いた弥江の顔に笑いが込み上げてくる。
「あっははは!弥江の顔、今すっごい変だったぞ!」
「ちょっ笑わないでくださいよー!本気で驚いたんすから!」
顔を赤くして言い返してくる弥江が可愛く思えて、またうっかり笑ってしまったらやっぱり真っ赤になって叫んできた。
「だから笑わないでくださいってば!」
「あははっそれは無理だなぁ〜」
だってあんまり弥江が可愛いから。そう言ったら弥江は怒るのかなって思ったけど今は止めておこうっと。私だって引き際くらいは知ってるんだ。いつもは無視してるだけで。
「こら小平太!話しの途中に走り出してんじゃねぇよ!」
そのまま笑い続けてたら背中から留の怒鳴り声が聞こえてきた。あーぁ、そんなに怒らなくてもいいのに。
「よしっ、弥江逃げるぞ!」
「はぁっ!?……ってぅわぁあ!!」
煩い留から離れる為に弥江を肩に担ぎ上げる。今度は弥江の顔は見えないけど、きっとまた凄く驚いた顔なんだろうな。
「裏々山までいけいけどんどーん!!」
「ひぇ〜!!何で俺までーー!」
「あっおい待て小平太!弥江は置いてってやれ!」
留が追い付かないうちにがっちり弥江の体を掴んで一気に走り出す。こういうものは早い者勝ちだ。あっという間に留の声は聞こえなくなっていく。
夕日を見ながら裏々山まで走る間、私はもやもやしてたことなんて綺麗さっぱり忘れてしまっていた。
「弥江!やっぱり走るのは楽しいな!」
「(むしろ酔いそうなんですが…!!)」
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