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光り(竹鉢)※





たまに、ふと、私は誰なのかと自問する時がある。
素性云々ではなく、ただ純粋に『私』とは誰なのかを。自問自答でないのは、いつも答えを出さないから。

常に変装をしているせいか久しく自分の顔を見ていない。だからだろうか…この自問もただの馬鹿げた行為だと思う第三者の『私』がいるのもまた事実だ。





「阿呆らしい」





そして今日もまた、己を誇張するかのように光っている月を見上げながらくだらない感情へと嘲笑を投げた。
それと同時に、背後へと感じ慣れた気配が一つ舞い降りる。



「なぁに一人で月見なんかしてんだよ?どうせなら俺も誘えってぇの」

「人が折角久しぶりに感傷に浸ったというのに、月見なんかと一緒にしないで欲しいものだな」

「感傷?三郎、なんかあったのか?」

業と相手を動揺させるよう言葉を選び文句を言ってやれば、コイツは案の定眉を寄せ心配してますとありあり書かれた顔で尋ねてきた。
そのことに意識せずとも口角が上がる。



「いや、ただの一人遊びみたいなものだ。ちょうど馬鹿らしくなってたところだったからな、気にするな」


自分からそう仕向けたくせに。内心白々しいと思いながら言葉を返す。
どうせコイツのことだ。笑って流すに違いない。


「ふーん?まっ、今は三郎大丈夫みたいだし、気にしないでおくかな」


ほらな、やっぱり。
暗い中で眩しいくらいの笑顔を向けてくる目の前のコイツは、普段鈍いくせにこういう時の他人の感情を汲み取るのは異常に上手い。
野性の勘だね、と以前雷蔵が言っていたが正にその通りだと思う。
きっと本人は難しいことなど一つも考えてないのだろう。
全く、厄介なものだ。



「………寒い」

「ん?そうかぁ?三郎は寒がりだもんな」


ケラケラと笑う八左の肩にもたれ掛かれば、自然と肩を抱かれる。自分とは違う体温にそっと息が漏れた。


「今日はやけに大人しいな、お前」

「お前がいつも騒ぎ過ぎてるだけだ」

「俺だけじゃないだろー。結局いつも雷蔵だって兵助だって、三郎だって混ざってくるじゃねぇか」

「それが分かってるなら俺らの優しさにもっと感謝するんだな」

「そりゃーありがとうございました」

「心が篭ってな……い」


他愛ない言葉を紡いでいれば、急に肩だけでなく体全体を抱きしめられる。


「何なんだいきなり」

「言葉じゃ上手く伝わりそうもないから、文字通り態度で表してみたんだよ。どうだ?俺の感謝の気持ちがいたーい程伝わっただろ」

「………お前は動物か何かか」


確かに伝わった。が、これではあまりにも幼稚過ぎないか。人間は言葉という文化を持っているのだから最大限それを利用すべきだ。



…とは思うものの、感じる熱量に安堵した自分もまた事実で。私はそっと相手の背に手を回す。頬を寄せた胸から聞こえる鼓動に耳を傾ければ、それが段々速くなっていくのが分かった。


「……わりぃ、三郎」

「あ?何が」

「ちょっとムラッてきちまった」

「馬鹿だろお前」


呆れた顔で見上げた先に降ってきたのは、噛み付くような荒い接吻。腰にはしっかりと腕が回されている。
至近距離で見つめた相手の眼の中に宿る光を見つけ、それに欲情する私自身に気付き舌打ちを一つ。













影が色濃く出る為には強い光を必要とするが、強烈過ぎる光は時として影をも焼き尽くす。



このまま焦がされ消えていくのも悪くない。



そう思うのは、ただの気まぐれか、それとも……。







(嗚呼、私は今宵も光に呑まれた)


あきゅろす。
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