手遅れ(くく→タカ)※
好きだと気付いた時にはもう既に遅かったのだろう。
もがけばもがく程底の見えない闇に堕ちていく感覚が胸の奥から競り上がってくる気がした。
初めて会った時は確かに嫌いだったのだ。いつもヘラヘラ笑って悩みなんかないような顔をしてるくせに、それでも時々…本当に極僅かにだが、急にこちらが思いもよらないような表情をしてみせる。まさに今まで全く関わったことのないタイプの人間だった。よく分からない、分からないから必要以上に関わりたくない。
そんなアイツの第一印象は、一言で言えば最悪。
何かと言えば髪に触ろうとする欝陶しい奴程度にしか思っていなかったのもまた事実で。よく知りもしない奴に髪とはいえ体の一部に触れられるのは嫌だったため拒み続けたのは当然の反応だろうと思う。
だが、いつからだろうか。
この心がアイツを視界に入る度に痛みを伴うようになったのは。
アイツが嫌いだからこんな思いになるのだと、そう信じていられたならきっと楽だったに違いない。
しかし高学年とも呼ばれるこの歳になってはそんな幼稚で稚拙な考えを持っていられるわけもなかった。
これは恋なのだと望まずとも認識してしまう。
今思えば、初めの苛つきも理解したくてもしきれない相手への八つ当たりに過ぎなかったのだろうか…。
「斎藤タカ丸」
「何?兵助君」
「いや、何んでもない」
気付いてしまったからには仕方ない。自分だけ恋焦がれるなど御免だ。
コイツも自分のところまで堕としてしまおうか…。
隣でヘラヘラ笑う相手が自分を求める姿を見てみたい。
ドロリとした黒い塊が体の奥底に沈んでいく感覚がして、出てもいない唾を飲み込んだ。
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