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だから笑って(タカ丸)



校庭の木に寄り掛かって難しい顔をしたタカ丸さんを見つけた俺は、気付いた時にはタカ丸さんの前まで無意識に来ていた。



「タカ丸さん、笑って?」

「え?」

突然言われたタカ丸さんは驚いた顔をして俺を見ている。そりゃそうだよな、いきなりこんなこと言われちゃ。

首を傾げているタカ丸さんに、俺は構う事なく言葉を続ける。



「俺タカ丸さんの笑顔好き」

「えー、笑顔だけなの?」

「特に、ってこと」


流石人を商売相手にする職業だけある。とっさにニコッと笑って冗談を返せるのは一年のきり丸とタカ丸さん、それと仙蔵先輩くらいだろう。俺は否定の意味を込めふるふると首を振る。
それが相手にも伝わったのか、今度は照れたように頬を指で掻いた。


「…なーんかそう言われると照れちゃうなぁ。でもなんで僕の笑顔が好きなの?」


彼独特の猫のような口元が弧を描く。でもやっぱりまだ俺の好きな笑顔は見せてもらえない。なるべく信じてもらえるように、ゆっくりとでもはっきり思ったことを口にする。


「なんだか安心するっていうか、ホッとするっていう感じがするから」

「あはは、それは嬉しいな」

「俺は本気で言ったんだけど…」


お世辞だとでも思われたのだろうか。ムッと口を曲げればごめんね、と謝られた。


「本気で言ってくれてるのは分かってるよ、だから嬉しいんだもん」


この人と話していると、時々妙に“大人だなぁ”と思う時がある。子供のような好奇心を発揮させ(人のことは言えないけど)たり、かと思えば実は結構冷静だったり…掴みどころのない水のような感じだ。それに、冗談と本気の違いをこの人は絶対に間違えない。本当に不思議な人。
そう思ったら、ふと別の疑問が口を突いて出た。


「笑うのに疲れたりしない?」

「疲れる?弥江君は笑うと疲れるの?」


こんなこと聞いた自分に1番驚く。でも一度言ってしまえばその疑問はスラスラと後を続いて出てくる。


「心から笑ってる時は疲れないけど、タカ丸さん時々作り笑いまでしてるから」

「……。そんなこと言われたの弥江君が初めてだよ」


今やっとタカ丸さんの口から弧が消えた。きっと相当驚いたんだろう…。そうは思っても俺は疑問の答えが知りたくて更に答えを相手に求める。


「で、疲れないの?」


首を傾げればタカ丸さんは少し悩んだ後にまたヘラッと笑った。……違う、見たいのはこの笑顔じゃない。


「うーん、どうだろうね。でも笑うのは好きだから苦じゃないよ。弥江君だってムスッとするより笑う方が好きでしょ?」

「そりゃ、まぁ」


それはそうなので素直に頷く。そんな俺にタカ丸さんは優しく微笑んだ。あ、これは好きな方だ。


「僕はね、なるべくいつも笑顔でいたいんだ。僕はまだまだ忍者には程遠いし、実力だって全然ない。だからその分、おつかいで帰って来た子たちとか頑張って練習してきた子たちを笑顔で迎えてあげたいなって。僕なんかの笑顔でも励まされてくれたら嬉しいからさ」


なんとも彼らしい理由だ。優しくて、弱くても強い彼だから言える言葉。
ただちょっと自分を過小評価し過ぎな気もするけど…。


「僕なんか、なんて言っちゃ駄目だよ。きっと学園の皆がタカ丸さんの笑顔に励まされてるはずだから、もっと自信持たなきゃ」

「そうかな…」

「ん、そう。俺が保証する」


俺がそう思ってるだけだけど、きっと間違っちゃいないはずだ。だって学園でタカ丸さんが嫌いなんて言ってる人はほとんどみたことがない。(一部の奴らはひがんでるらしいけど、そんなの知ったこっちゃない)


「えへへ、ありがとう」

「こちらこそ」


また照れたように頬を掻いて微笑むタカ丸さんを、俺は無性に撫で回したくなった。



















「ね、だから、笑って?」
(君の笑顔が見たいんだ)


あきゅろす。
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