【 人間万事塞翁が馬 】
9
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「・・・ん〜、む、う?」
やっべ、ちょっとマジ寝しちゃったかも!?
慌てて腕時計に目をやると(外出ん時には必須だろ?)どうやら15分程度意識を飛ばしていたらしい。
やはり慣れない環境に疲れとかストレスとか知らないうちに溜まってたのかな?
短時間とはいえ、ぐっすりと眠っていたようなのでなんだか気分がいい。
・・・ふと、違和感に気付く。
まさか。そんなまさか・・・!!
あまりに自然すぎて一瞬気付かなかったが・・・
「芥川・・・」
なんで俺の膝を枕にして寝ているんだあああぁぁ!!!
下を見れば右には遥香が。
随分顔色も良くなってきているから、やっぱり寝不足が堪えたのだろう。
そして。左に眠るは氷帝学園が誇るスピーピング・ビューティー、
その名も芥川慈郎が、それはもう天使のような笑顔で眠っていらっしゃった。
眠っていたらジロー襲来とか。あ、ありがち・・・!!
はてさて。一体どうしたもんかと逡巡してとりあえず遥香を起こすことにした。
寝こけ羊はそう簡単には起きやしないだろうしな。
「おい、遥香ー。遥香、こら起きろ!」
ぶっ倒れた人間にいささか乱暴かとは思うが致し方あるまい。
非があるのは夜遅くまで妄想して騒いでたコイツだ。
「起きろ、おーい、起きろっつってんだろー」
ペチペチ、とおでこを叩いてみればどうやら目が覚めたらしい。
うーん、なんて呻いている。
「起きたか?」
しばらくもにょもにょしていたかと思えば、バッっと勢いよく身体を起こした。
ウン、急激に動くのはあんまり身体に良くないと思うんだ。
「・・・あれ?」
「おはよう?気分はもう平気か?」
遥香は自分にかかっていたブレザーを見下ろした後、起こした上半身をひねってこちらに顔を向けた。
「おは、よ?・・・あれ?」
「あー、お前ぶっ倒れたんだよ。式の最中にさ。」
昨日夜更かししてただろ?、と言えばああ、と理解したようだった。
「で。保健室、連れて行こうとしたんだけど、さ・・・場所がわかんなくて!!」
へへ、ごめんな、なんて笑いかけた。もちろん場所が分からないなんて嘘だけど。
そんなことを一々伝える必要はないだろう。
遥香はちょっと困ったように、だけど綺麗に微笑んだ。
遥香もきっと気付いてる。
「俺も地べたに寝かすのもどうかとは思ったんだけどねー。ま、天気もいいし手入れも行き届いてるし」
身体はつらくないか?そう尋ねれば
「ううん、全然!気持ちいーね!
・・・あの、その。し、心配掛けてごめんね?それに・・・ありがとう、歩ちゃん」
ほら、こんな奴なんだよ。遥香はさ。
こんなだから、ちょっとぐらいワガママ言われてもしょうがないかな、なんて思っちゃうんだよな。
よし。
「それで、だ。遥香。落ち着いて聞け。ってか口塞いどけ」
ニッコリ、と俺は笑みを浮かべる。
見るからに分かってない、と言った顔をする遥香にいいから、と言えば、やっぱり分かっていない顔のまま、それでも素直に口を塞いだ。
それを確認して俺は下を指差した。
遥香はちょうどヤツに背を向けた状態だったから見えていなかったんだと思う。
俺の指の先を追って視線を下げる。
「!!!!!!!!」
うん、口塞がせといて良かった。
そこには未だにピクリとも動かずにすやすやと眠り続ける、例の寝こけ羊がいたのだった。
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