【 人間万事塞翁が馬 】
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ふと斜め数列前の割と近い席に遥香の後ろ姿を発見した。
そういえばさっきは教室行く暇がなかったんだっけ。(大介と和泉に捕まったため)
ぼー、っとその後ろ姿を眺めていれば(だ、断じてストーカーなどではないぞ!)ふとした違和感に気付く。
(あれ・・・?)
遥香はうつむいていた。遥香は人の話はちゃんとその人の顔を見て聞く奴だ。(聞かないときは全然聞かないが)
どうやら様子がおかしい、気がする。チラリと見える遥香の横顔(ナナメ後ろ顔?)が青い。
(はるか・・・?)
そう思った瞬間、遥香の身体がグラリと揺れた。
ヤバイ!
音を立てて遥香は床に倒れこんだ。遥香の近くから小さな悲鳴が聞こえた。
周囲は騒然としている。やがて講堂中にざわめきが伝わり、先生方や来賓の人たちも騒動に気がついたようだった。
貧血だ!
アイツは昔からちょっと身体が弱かったし、昨日も夜更かしして体調が良くなかったのかもしれない。
「クソ・・・!」
気付いてやれなかったことに後悔するも、じっとしているわけにはいかない。
俺は立ち上がると椅子と人の群れを掻き分けて遥香の元へと歩み寄った。
先生方もこちらにやってこようとしているが、椅子と人との壁が幾重にもはばかってこちらに来ることは難しそうだった。
大丈夫!?と遥香の前の席に座っていたらしい女の子がオロオロしながら声をかけるも遥香は答えない。
「大丈夫、ただの貧血だから」
俺は遥香の横にひざまずくと、いったん心配する女子の方に声をかける。
「・・・心配してくれてありがとうね」
そういって笑いかけると、俺は遥香に手を伸ばした。
遥香の背中とひざの裏に手を回して、そのまま抱え上げる。
辺りが一瞬静寂に支配された。
「ごめんね、通してくれるかな?」
そう言って後ろを振り向けば、まるでモーゼの十戒かと言わんばかりにギリギリ通り抜けられるほどの道が開かれた。
「ありがとう、悪いね」
そう言って大講堂を出る。
人混みを抜けたところで先生に呼びとめられたが、ただの貧血なので大丈夫です、保健室に運びます、とそれだけ言うと返事も聞かずに大講堂を出て行く。
遥香を抱きかかえたままで。
後ろから北川!と誰かに呼ばれたような気がしたが構っている暇はない。
俺たちが出て行った後ろではしばらくの間、鳴りやまないざわめきが大講堂を支配していた。
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