【 人間万事塞翁が馬 】
1
高校入学を間近に控えたある朝。
天と地がひっくり返ったのではないかという様な信じられない出来事が俺の身に降りかかった。
「・・・ちょ、え。マジ?」
なななな、なんじゃこりゃあああぁぁぁぁぁ!!!!
*********
pipipipipipipipipipi......
「んぁ、あ、さ・・・」
ねむ・・・
pipipipipipipipipipi......
携帯のアラームが鳴り響く部屋。
カーテンの隙間からは朝日が漏れ出している。
いつもとなんら変わらない光景。
pipipipip、プッ
眠さをこらえて耳元で鳴り続けるアラーム音を止めるとモゾモゾとベッドの上に起き上がった。
「んーふぁ、あ〜〜〜、あ?」
あくびをして大きく伸びをすると俺は自身の異常に気付いた。
「・・・あれ?」
短かった髪は胸の下くらいにまで伸びている。
なんだこれ。俺いつの間にロングヘアーになったんだっけ?
・・・・・・は?
「ム、ネ?」
ふと自分の体を見下ろせば見慣れぬ物体が二つ。
俺の、いや、世界中の男の夢とロマンと希望が詰まった例の物体ですよ。二つ。
むにむに。
「おー・・・やらけ。すげー」
なかなかリアルな感触である。
まだ夢見てんじゃん・・・それにしても女になる夢をみるとは。
そんな願望は無かったはず。無かった・・・はずだ、うん。
「・・・うん、ま、いっか。トイレ、行こ」
モゾモゾと起き上がり、部屋のドアを開けた。
ガチャ、
「・・・」
バタン。
あれ、なんか広いリビング?が見えたんだけど。
・・・あ、そうだ。これは夢なんだった。
再びドアを開くとやはり見慣れぬリビング。
しかも結構広い。20畳くらい?・・・でかくね?
とにかくトイレに行きたい。
リビングを横切り、適当なドアを開けていく。
クローゼットや風呂場のドアを間違えて開けてしまったがまあ構わない。
いくつ目かのドアを開けてやっとトイレに辿り着いた。
ふぅ。
「ト、イ、レ、ト、イ、レ、ト、イ・・・アレ??」
・・・・・・ない。ないぞ。
普段あるはずのモノがなかった。
生まれてこの方、10年以上もともに歩んできた。
アレが。そう、口に出しては言えないが。
ア レ が な い。
「ひょ、え、チ、ない!ちょまっ、どぅえ!!??」
ドタバタと先ほどスルーした洗面所の鏡を改めて覗き込む。
俺の顔だ。髪は長いけど、まぎれもなく見飽き、見慣れた俺の顔。
胸がある。アレは無い。え、まあこれは夢・・・
ゆ、め・・・なんだよな・・・・・・??
ドゴン!!
「・・・痛、い?」
全力で壁に頭突きをかますとありえないほどの痛みが額を襲った。
・・・軽く脳みそが揺れたんじゃなかろうか。
それどころではない。
頭の中を信じられないような方程式がよぎった。
全力で頭突き→死ぬほど痛い
イコール
「夢、じゃ、ない・・・??」
クラクラする頭を抱えてフラフラとその場にへたり込んだ。
「・・・ちょ、え。マジ?」
どゆこと?
切れた額を一筋の血が伝い、背中に嫌な汗が伝うのが分かった。
なななな、
「なんじゃこりゃあああぁぁぁぁぁ!!!!」
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