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09






「だーかーらー、そんなピリピリすることないじゃないか」

「てめぇはいつも詰めが甘いんだよ」

「リヴァイは潔癖すぎだって」



ドアの外から聞こえるそんな言い合いが段々と近づき、そしてそれらの張本人達は戸を開け、現れた。


やあ***元気? なんてヘラっとしたハンジを見て、さっきまでの心配は杞憂だったことを悟る。


そして二人の姿を見て、少々呆気にとられた。


二人とも、汚れのない真っ白な布を首もとに巻いている。


リヴァイに至っては、それを頭にも巻いていたのだ。


その姿に思わず吹き出してしまった。



「ちょっ、二人とも!」

「なんだ」

「ん?」

「それ、一体どうしたの」



堪えられず笑いながら問いかけると、ハンジは「ああこれね」と苦笑し、リヴァイもさして嫌な顔はせず淡々と口を開いた。



「今から掃除だ」












目の前で懸命に部屋を掃除してくれている二人の様子を、ベッドの上から眺める。


いくらなんでも申し訳なく思い、部屋の主である私も参加すると言ったところ、怪我人ということで戦力外通知を出された。


そのためこうして高みの見物状態なのだけれど、部屋の隅々までチェックされるのはなんだか恥ずかしくてしょうがない。


リヴァイはクローゼットの下の隙間や棚の上を覗き込むたび、汚ぇな、と零す。


その言葉は私の中の羞恥心を呼び起こし、部屋から逃げ出したい衝動にかられた。



「おい、クソメガネ」

「なんだい?」

「こういう所もやらなきゃ意味ねぇだろうが」



そう言って、ハンジの頭をぐいっと床に押し付け、クローゼットの下を覗かせる。

私は心の中で叫んだ。

やめてくれー!あまり見ないで!



「私ふだんこんな所までやらないよ。大掃除の時ぐらいしか」

「汚ぇやつだな」



ハンジの言葉に、リヴァイが舌打ちする。


それは私にもされてるようで、体が萎縮してしまう。


私もハンジの言うように、ついつい見えない所は後回しにしてしまう。


言い訳だけれど、分隊長の身になってから何かと毎日忙しかった。


そんな多忙な生活で、つい、だ。

見える所は掃除するも、なかなか掃除よりは睡眠、といった毎日になってしまっていた。



「にしても……これは前々からしてなかったようだな、***よ」



ドキリとする。

今はマスク代わりに布で口元が隠されているからか、普段の倍ぐらい目付きが悪く見える。

でも頭にも巻かれた布のおかげで、その威力も帳消しだった。



「すみません……多忙な日々だったんです」

「言い訳だな」

「しょうがないじゃん、人間だもの」

「開き直るんじゃねぇ」



リヴァイはマスクの下でため息をつく。

てめぇもクソメガネと同類だったか、という彼の言葉に、ハンジは、うちらマブダチだからね!と嬉々として言った。



「そういえばさ、***は忘れてしまったかもしれないけど、リヴァイの潔癖ぶりはあの時も凄かったね」

「あ?」

「あの時?」

「私の部屋で、3人でお酒飲んだ時なんだけどさあ」



ハンジの部屋で飲んだ時……と記憶を探ってみる。


普段飲むときは、食堂でハンジと二人や、ミケ達も含めて皆で飲むのが多い。


部屋飲みで思い浮かんだのは、あれは一年ぐらい前だっただろうか……ハンジがどこから持ってきたのか、年代物のウイスキーを片手に誘ってくれた時があった。



「もしかして、高級そうなウイスキー開けた日?」

「そうそう! 覚えてる?」

「一応覚えてはいる…んだけど……」



覚えてはいるのだけれど内容はひどくボンヤリしていて、その上たぶん記憶は改ざんされている。


私の頼りない記憶は、二人だけで飲んだことになっていた。


他に誰かいた気が、しなくもないけれど……靄がかかったように曖昧だった。


私が言葉を濁したことで、ハンジとリヴァイは分かったらしい。



「まあまあ、これからちょっとずつ思い出していけばいいよ」

「うん」

「でさ、その最中たまたま部屋の前を通りかかったリヴァイも誘ったんだけど」

「ブタ小屋だったな」

「そうそれ! なんか固まってるなって思ったらいきなり "ブタ小屋だな" だよ。失礼だよね」



そこから潔癖症発症で、とハンジは続ける。



「こっちはもう出来上がってたのに、掃除し始めるからビックリだったよ」

「あんな汚ぇとこで飲めるか」



二人の会話を聞きながら、私と彼は一緒に飲むほどの仲だったのだな、と改めて認識させられた。


昔の私がリヴァイにどう接していたのが全く想像つかなくて、ハンジと同じように接することに決めたけれど、どうやらその方向性は間違ってないらしい。



「ねえ、私の怪我が完治したらさ、また3人で部屋飲みしようよ」



言い合いをしていたハンジとリヴァイがピタリと止まる。

そして私を見て少しの間の後、口を開いた。



「……うん、そうだねいいね! そしたら完治お祝いしよう!」

「ちゃんと掃除しとけよ」



承諾の返事がきてホッとした。

ハンジはお酒に強いけど、リヴァイはどうなのだろうか。

彼も酒豪な気がする。



「無駄話もそろそろ終わりにしてさっさと続きをするぞ。***、お前はよく見ていろ。掃除の仕方を教えてやる」



そう言ってリヴァイは掃除を再開したため、ハンジも習って後に続く。

私はリヴァイに言われた通り、彼の掃除作法を見ることに集中した。








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あきゅろす。
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