05
「私達って、知り合い…ですか?」
私のその言葉に、部屋の空気が固まった。
皆の表情も固まっている。
同時に、場違いのセリフを言った時のような気まずさが、部屋を包み込む。
頭が痛む中、そこで悟った。
私は、この人と知り合いなのかもしれないと。
「え……っと、***、それは冗談…かな?」
沈黙の後、ハンジは言葉を選びながら口を開いた。
驚いたような、困ったような顔をしている。
冗談だったら、どんなに良かったか。
冗談だったら、この気まずい雰囲気をどうにかできるのに。
もう一度、彼の顔を見る。
しかし、どうしてか思い出せない。
それどころか、頭痛がひどくなる。
目の前で私を見下ろす彼は、少し見開いていた目を細め、眉間にシワを寄せた。
「てめぇ……なんの冗談だ」
怒気を若干含んだようなその声色に、思わず肩が跳ねてしまった。
それに反応するように、彼の眉がピクリと動く。
これは、怒っている。
冗談ではないのに……。
申し訳なさを感じる反面、彼の利かせている睨みに恐怖心が顔を出す。
そんな私を見ていた彼は、盛大に舌打ちをした後、踵を返して部屋を出ていってしまった。
「ちょっ、リヴァイ!」
「兵長!」
ハンジとペトラが彼の名を呼ぶ。
ペトラは彼の後を追い、部屋を出ていった。
複雑な気持ちだった。
訳が分からない。
明らかに私と彼は知り合いみたいなのに……どうしても、思い出せない。
どうして思い出せないのだろう。
こんな、記憶喪失のような経験は初めてで怖い。とても。
リヴァイと呼ばれていた彼は、どう思ったのだろうか。
彼に対する罪悪感と、記憶がない恐怖と、何がどうなっているのか分からない混乱で、感情がぐちゃぐちゃだった。
「***…」
「ハンジ……私、どうしちゃったんだろう。本当に、分からなかった。冗談じゃなくて、思い出せないの」
「きっと怪我のせいだよ。ほら、3日間も意識なかったぐらいだしさ。たぶん一時的なものじゃないかな」
「そう、なのかな」
「きっとそうだって! よくあるじゃないか、ショックとかでさ、一時的に忘れちゃうやつ。今回の壁外調査が、***にとっていつも以上にとても辛かったのかもしれないね」
そうなのだろうか。
そういえば今回の壁外調査について、自分が怪我を負った経緯だとかも――何も思い出せない。
「とりあえず、医師に相談してみよう。私も一緒にいるよ」
ハンジは私を安心させるように、穏やかな口調と表情でそう言ってくれた。
ありがとう、とお礼を言うも、感謝の気持ちの中で不安が大きく占領していった。
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