02
目が覚めた時に目に入ったのは、天井だった。
自分がどこにいるのか分からず、どういう状況下にいるのかも把握出来なかった。
ふと、誰かが横になってる私を覗き込む。
この子は、見覚えがある。
しかし名前がすんなり出てこない。
「***分隊長、大丈夫ですか!?」
心配そうに私を見つめる彼女は、すぐに何か思い立ったように立ち上がり、兵長達を呼んできますね! と言って部屋から出ていってしまった。
頭がぼんやりする。
さっきの子、名前はなんて言ったっけ……。
起き上がろうとすると、体に激痛が走った。
私は、一体どうしてしまったんだっけ。
状況が把握出来ない。
体も痛いけど、頭も痛い。
そんな時、いきなりドアがすごい勢いで開いた。
「うわ゛ぁぁああ!! ***ー!!」
大声で入ってきたのは、ハンジだった。
「大丈夫かい!? 傷は痛む!? 撤退時に***の姿が見当たらなくて、肝が冷えたよ! まさか巨人にやられてしまったのかってね! ***に限ってそんなことはないと思ったけど、壁外調査に予想外の出来事は常だからさあ! これでもし***が巨人に喰われてしまったら! 巨人は好きだけどさすがに許さないな! ああでも無事で本当に良かったあああ!!」
私に駆け寄り、一気にまくし立てるように言ったハンジの声は、若干泣き声だった。
いきなりのことに驚いたけれど、ハンジの言った内容で自分の状況を少しずつ把握する。
私はどうやら、壁外調査で怪我を負ったらしい。
でも何故だか、その時のことが上手く思い出せない。
「ハンジ……私、壁外で怪我したんだね」
「そうだよ! 3日間も意識なかったんだ」
「3日も!?」
「3日も!!」
まさか3日間も意識がなかったなんて。
頭がぼーっとするのはそのせいだろうか。
「でも意識戻って本当に良かったよ」と涙をうっすら浮かべながら言う友人を見て、胸が熱くなり、涙腺が緩む。
「リヴァイが助けに行ったそうじゃないか! それも彼の部下によれば、相当焦ってたらしいね」
焦ってるリヴァイも見てみたかったなあ、というハンジの言葉に、うるせぇな、と彼女の後ろから声がした。
視線をそちらへ向ければ、いつから居たのか、ドアにもたれ掛かってる人物が一人。
そしてその隣には、さっき呼びに行くと部屋を出ていった女性がいた。
――そうだ、彼女は確かペトラと言った気がする。
「ほらリヴァイ、そんな所に突っ立ってないで中に入ってくればいいじゃないか」
「てめぇがギャーギャー騒いでうるせぇから近寄りたくないんだよ」
「ひどいな! そんなこと言ったって、本当は***が心配で心配で今すぐ駆け寄りたいんだろう?」
「あ? ニヤニヤすんな気持ち悪い。二度とふざけた口きけないようにするぞ」
「おー怖い怖い」
ハンジは仲良さげにその人と話している。
ハンジとは訓練兵の時から一緒だった。
だから、彼女の親しい人は把握しているつもりだったのに……。
何故だろう、頭痛がひどくなる。
「***、大丈夫かい?」
「うん……大丈夫、ちょっと頭痛いだけ」
「ほらみろ、てめぇがでかい声で喋ってるからじゃねぇか」
「!」
「***はクソメガネに付き合ってないで寝てろ」
近くに来たその人は、私にそう言った。
それはまるで、私と知り合いのような口調。
……どうしてなのだろう、私は、この人を、
「……あの……すみません、失礼かもしれないんですが、私達って、知り合い…ですか?」
思い出すことが出来ない。
頭の痛みは、治まらなかった。
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