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目が覚めると、窓からは太陽の光が入っていった。

鳥の鳴く声が聞こえる。

穏やかな朝。

いつの間にか寝ていたらしい。

目の前に広がるのは私の部屋より物の少ない、整頓された部屋で、昨日この場で飲み会があったとは思えないほど綺麗になっている。

そしてこの部屋の主の姿は、どこにも見当たらなかった。

ゆっくり起き上がる。すると昨日のアルコールが、残り香のように体内から上がってきた。

と同時に、昨日のことを思い出す。

まるで夢だったかのようだけど、ここが彼の部屋という現実が夢でないと否定していた。

リヴァイはもう出たのだろう。

私は彼に怒られないよう綺麗に布団を直し、静かに部屋を出た。










「ううう゛……頭痛い……」


ざわつく食堂で朝食をとっていると、どんよりした顔のハンジが目の前に座った。

彼女は座るなり、肘をついて頭を抱え込む。



「おはようハンジ。私もまだアルコール抜けきってないよ」

「でも見た感じ、二日酔いにはなってないみたいだね」

「いや、頭ガンガンする」



ガンガンはするけど、今の私には他の事に意識が向いていた。

昨夜の出来事がどうしても気になって仕方ない。

リヴァイは……一体どういうつもりだったのだろう。

ただ、昨日の私達は相当飲んだ。

そのため、ただ酔っていただけという可能性は大いにある。



「ハンジ」

「うん?」

「私ってさ、誰とも付き合ってなかったよね?」

「へ?」



ハンジはきょとんとした。

リヴァイと付き合っていた可能性はないかと思ったけど、彼女の反応からどうやらそんなことはないらしい。

もし恋人同士だったなら昨晩のことも納得いくけど、やっぱりただ酔っていただけのようだった。



「どうしたんだい、いきなり」

「ごめんごめん、忘れて」

「そんなこと言われても気になるじゃないか!」



しまった、こうなったら彼女はとことん問い詰めてくる。

リヴァイと本当は付き合ってたんじゃないか、なんて思ったんだよねー。なんて言った日には、嵐のような質問攻めで殺されてしまう。

どうしよう。どうやって逃げようか、なんて思っていた時だった。

タイミング良く、エルヴィンが来たことで話が中断される。



「おはよう。二日酔いは大丈夫か?」



エルヴィンはハンジの隣に座った。

彼は私達と違って、アルコールはすっかり抜けているらしい。

彼の隣にいるハンジは、頭痛いから会議休んでもいいかな、なんて出来ない相談をしてる。



「会議は昼からだし、その頃までには治っているだろう?」

「えー」

「それより***、昨日は大丈夫だったか?」



そう問われ、ドキリとする。

口を尖らせていたハンジは、エルヴィンのその言葉に私へと集中を見せた。



「え、昨日? 何かあったの***」

「ああそうか、ハンジは寝ていたからね。***は飲みすぎて具合悪くなったんだ」

「そうなの!? 大丈夫?」

「昨夜はリヴァイが看てくれていたから、私はそのまま任せたんだが…」



ご丁寧にも、エルヴィンは昨日のことを話してしまった。

ああハンジの瞳が……輝いている。



「リヴァイが!? へえ! 」

「あのねハンジ……私は吐いたりして彼に迷惑かけちゃっただけだから、ハンジの期待してることは何もないよ」

「でもリヴァイが看護したんでしょう? 彼の部屋で」



ハンジは満面の笑みで言う。

こういう時の彼女は本当にいい顔をしている。



「何かドッキリな間違いとか無かったのかい?」

「ないない、本当に迷惑かけちゃっただけだって」

「えー、リヴァイ手出さなかったの? やる時はヤる男だと思ってたんだけどなあ……あ、」

「誰が何をヤるって?」



その声に、心臓が跳ねた。

いきなり気配もなく後ろから現れた彼に、びっくりしすぎて体が硬直する。



「なにくだらねぇ話してんだ」

「ちょうど良かった、リヴァイの話してたんだよ」

「てめぇの馬鹿でかい声が頭に響く。もっと静かに喋れないのか」



言いながら、彼は私の隣に座る。

無意識のうちに、少し身構えてしまった。



「具合はどうだ」

「あ、お陰さまで……。ご迷惑おかけしました」

「本当にな。もうちょっと自分の許容量を把握しろ」

「……ごもっともです」



リヴァイは、至って普通の態度で私に話しかける。

どうやら気にしていたのは私だけらしい。

やっぱり酔っていたし寝ぼけていたから、覚えてないのだろうか。



「ねえリヴァイ、本当に何もなかったのかい?」

「てめぇの脳みそはクソだな。そんなことしか考えられねぇのか」

「至って健全だと思うけどね!」



二人のやり取りを見ながら、リヴァイにとっては本当に何でもないことだったんだな、と認識する。

それが少し残念だという感情が生まれようとしたけど、無理矢理押し込んだ。



「それよりエルヴィン、会議前に少し話すんだろ?」



目の前で騒ぐハンジを無視し、リヴァイはエルヴィンに問いかけた。



「ああ、そうだった。すぐ打ち合わせをしよう。その前に***、キース教官から返事が来てね」



エルヴィンのその言葉に、視線を彼へ向けた。



「特別に許可してくれるみたいだ。ただ、条件がある」

「条件?」

「3ヶ月後に、立体起動の個別試験を受けるというものだ」



聞けば、今回の受け入れは相当特別らしい。

頻繁に兵団のリハビリを受け入れてしまっては、訓練兵達の集中力に影響が出るだろうという懸念からだ。

だから今回のみ特別に、期間は3ヶ月、最終日に実技試験を受けることが必須条件ということで承諾してくれたらしい。



「了解。受け入れてくれるだけでありがたいことだよ。いつから行っていいの?」

「明日からでも、あちらは大丈夫みたいだ」



それなら一刻も早く復帰するために、明日からの方がいいだろう。



「じゃあ、明日の早朝に出ようかな。掛け合ってくれてありがとう」

「いやいや、我々も***には早く復帰してほしいからね」



頑張ってきてくれ、とエルヴィンは付け足し、席を立つ。

それに合わせてリヴァイも腰を上げた。



「余計な怪我を増やしてくるなよ。シャレになんねぇからな」

「リヴァイこそ、壁外調査から無事に帰ってきてね。私よりシャレにならないよ」

「馬鹿言え。誰に向かって言ってんだ」



リヴァイは片眉を上げて私を見下ろすと、エルヴィンと共にこの場を離れた。

二人の後ろ姿を見送る。

これが最後だった、なんて可能性は大いにある。

この世から巨人がいなくならない限り。

私達が前線で戦う日が、終わらない限り。


――これでいいの?


もしこれが最後になってしまった時、私は、私がとってきた行動に後悔しない?


悔いは、残らない?


ふとそんな自問自答が脳裏をかすめ、同時にもはや後遺症のような頭痛が生じ始める。



「そっか、***とは3ヶ月会えなくなるんだね」



呟くように零したハンジ言葉を耳で拾ったことにより、さっきまでの思考は絶たれた。

そういえばこんなに離れるのって初めてかもね、と言う彼女の表情は、少し寂しそうに見える。



「確かにそうだね……ハンジとはずっと一緒だったもんね」

「3ヶ月かー。知ってる? 遠距離恋愛って、3ヶ月に1回会えなくなると破綻する確率が上がるんだって」

「マジでか。したらうちら危ないじゃん」

「いや、ギリセーフだね。サキがフラフラ他に目移りしなければ」

「マジでか。したらうちら危ないじゃん」

「マジか」



こんなくだらない会話もしばらく出来ないのか、なんて思うと、寂しく感じる。

もしどっちかが先に他界したら、一生こんな会話も出来なくなるのだ。

後悔しないように、毎日を生きる。

当たり前のようで意外と出来てないのかもしれない。

さっきのリヴァイの後ろ姿を思い出しながら、再び先ほどのように自問自答し直した。













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