17
ふと、目が覚めた。
身体中にアルコールが残っている感覚と、ぼんやりする頭。
視界は暗い。
まだ真夜中なのだろう。
上手く働かない頭で、考える。
そう、夜だ。
どうやら、途中で起きてしまったらしい。
少し焦点の合っていない視界に、壁が映る。
左側に感じるベッドの弾力感と、右側に感じるふとんの柔らかさ。
後ろからフワリと包み込まれているような温かさと、感じる吐息。
……後ろからフワリと包み込まれているような温かさ、と、感じる、吐息。
……ここは、一体、どこ。
覚醒を始めた頭が、状況把握をしようと働き出す。
背中に感じる温かさ。
それは、人肌ぐらいの温かさで。
後ろから私を包むのは、私よりも筋肉のついている、しっかりとした腕で。
私の手に重なるように置かれているのは、私よりも骨ばっている手だった。
呼吸を忘れたかのように、息が一瞬止まる。
これは、この状況は、一体どういうことだろう。
残ったアルコールのせいでぼんやりする脳を、無理矢理動かして記憶を辿る。
このアルコール……
そうだ、私は飲み会で相当酔ったんだった。
記憶は飛んでないらしく、そこからはすんなりと思い出していく。
ハンジ達とリヴァイの部屋で飲み、相当酔いが回り、吐くという大変迷惑行為を行なってしまった。
リヴァイが看護してくれてて、いつの間にか眠ってしまって……
ということは、ここは彼の部屋で、彼のベッドの上というわけで、
後ろにいる人物は、この部屋の主以外は思い当たらない。
「……」
緊張でどうにかなりそうだった。
なんでこういう状態になってしまったのか、分からない。
後ろを振り向いて確認したいけど、ちょっとでも動いたら起きてしまいそうで出来ない。
でも、うなじにかかる微かな寝息のせいで、振り向いて確認したい衝動に駆られる。
ちょっとだけ、寝返りをうつ感じにしてみたら大丈夫だろうか。
目を閉じる。
寝返りをうつ、というイメージトレーニングを何回かしてみる。
そう、自然に、ゴロンとすれば大丈夫だ。
自然に、自然に……。
その言い聞かせとは裏腹に、私の心臓状態は全く自然じゃなかった。
大丈夫、ただゴロンとするだけだ。
必死に言い聞かせ、そして緊張の中、イメージから繋げるように寝返りをうった。
「……」
やった……やってしまった。
目を閉じたまま自分の速い鼓動を聞きながら、じっと動かずに彼の動向を見守った。
彼はというと――動かない。
ということは、熟睡している……?
ゆっくり目を開け、そっと顔を確認する。
やっぱり、リヴァイだ。
閉じられた瞼と、聞こえる寝息。上下する胸。
寝ている。
今はいつも眉間に寄っているシワはなく、あどけなさを感じさせるような表情をしている。
意外と長さのある睫毛と、通った鼻筋。
きめ細かな肌。
綺麗な輪郭の唇。
整ったその顔立ちは、悔しいぐらい羨ましい。
最初は、彼の態度と鋭い瞳が怖くて、顔が整っているなんて思ったこともなかったけれど。
怪我から目覚めた時に見た、彼の鋭い睨みを思い出しながらリヴァイをじっと見続けた。
そしてあまりに凝視してしまったせいか、彼の瞼がぴくりと動く。
「――!」
眉を寄せ、かろうじて開かれたその瞳と、視線が合ってしまう。
しまった――起きてしまった!
そう思っても、体が固まって視線を外せない。
……どうしよう。
内心とても焦っていた。
そんな私を、リヴァイはしばらく開ききっていない目で見ている。
寝ぼけているのかな、そう思った時だった。
彼は、ゆっくりと口を開く。
「……、……寝ろ」
聞こえた声は低く、掠れたもので。
リヴァイは私の後頭部に手を添えると、そのまま引き寄せた。
私の顔は彼の喉元に密着する形になり、体はさらにくっつくことになる。
心臓は破裂しそうだし、なによりリヴァイが何を考えてるのか分からなかった。
何も考えてないのかもしれない。
ただ寝ぼけているだけなのかも。
再び聞こえた寝息の下で、私はしばらく寝ることなんて出来なかった。
*backnext#
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