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ああやばい、と思うも、時すでに遅し。

一気しすぎの蓄積分が、いきなり襲ってきた。

視界はだいぶ揺れ、同時に頭の中も揺れている感覚がする。

顔をあげているのも辛くて、立てた膝に顔をうずめ、目をつぶる。

それでも、座っている地面が回っているかのような錯覚は治まらなかった。



「おい、大丈夫か」



リヴァイの声が聞こえるけれど、顔をあげられない。

この中で、彼が一番アルコールに強かった。

私はこの状態だし、ハンジが床に突っ伏して寝始めたのは、数分前に確認済みだ。



「***、平気かい? 吐けるなら吐いといた方がいい」



つい30分前に来たエルヴィンが言った。

彼は来たばかりということもあり、あまり酔っていない。

吐けるかな、と自分に問うけれど、躊躇いが勝った。

リヴァイの部屋ということもあるし、何よりぐるぐる回る気持ち悪さで動きたくない。



「とりあえずベッド使っていいから横になれ」



潔癖症らしからぬリヴァイの言葉が耳に届く。

申し訳ないと思いつつ、少しでも楽になりたくて彼の言葉に甘んじた。

お礼を言ってベッドによじ登り、体を丸めて横になってみるけれど、揺れる視界は治まらない。

それどころか、いよいよ動悸も感じ始め、浅く速い呼吸になった。



「しょうがねぇな。エルヴィン、そこで寝てるクソメガネを部屋に戻してやってくれ。俺はこいつを看る」

「分かった。***を頼む」



そんな二人の会話を聞いて、うっすら目を開ける。

揺れる視界の中、エルヴィンがハンジを起こそうとしているのが見えた。


私も、一緒に帰る。


そう言おうとした途端、込み上げてきた吐き気。

止められそうもなく、思わず起き上がった。



――やばい。



目が回っていることも忘れ、後ろでリヴァイとエルヴィンの声を受けながら、彼の自室にあるトイレへと駆け込む。

入ると同時にトイレのドアを閉め、急いで顔を下げた。

胃に入っている物を吐き出そうと、体が頑張る。

けれどアルコールで吐いた経験があまりないため、上手く吐き出せず、苦しい。

***、とドアをノックする音が聞こえるけれど、待って、とだけかろうじて返事した。

リヴァイの部屋で、吐いてしまうなんて。

申し訳ないのと、情けないのと、なにより苦しいのとで涙が出てきた。








やっとのことで吐くことができ、トイレットペーパーで口を拭って流す。

あまりに苦しくて手は震えるし、吐いてもまだ視界は揺らいでいるし、すぐには立てなかった。

こんな姿を見られたくないのに、今度はノックせずにリヴァイが入ってくる。



「大丈夫か」



そう声をかけてくれるリヴァイに、ごめん、と謝った。

すると彼がしゃがむ気配を感じ、直後背中から伝わる温かさ。

リヴァイが、背中をさすってくれている。

ごめん、ともう一度彼に謝った。



「なんで謝ってんだ」

「だって、吐いちゃった……」

「何言ってる、吐いた方がいいだろ。少しは楽になったか?」



つくづく、この人は本当は優しい人だと感じる。

リヴァイがさすってくれたおかげで、だいぶマシになってきた。



「ありがとう。ちょっと良くなってきたから、今のうちに帰るね」

「帰れるのか?」

「うん、大丈……」



大丈夫、ではなかった。

立ち上がろうとした直後、まるで貧血のような症状に、それ以上体を動かすことが出来なかった。



「全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか」



リヴァイの声が聞こえた、次の瞬間だった。


彼が近づくのを察すると同時に、ふわりと感じる浮遊感。


驚いて顔をあげると、あまりにリヴァイの顔が近くて、すぐに下げた。



「え……あ、の! リヴァイ!」

「なんだ」

「私、重い!」

「どこが。ちゃんと食ってんのか」

「あと! 汚いし!」

「汚くねぇから大人しくしてろ。またぶり返すぞ」



これはいわゆる、世間で言われるところのお姫様抱っこというやつで。

人生初、何よりリヴァイにされていることに、顔や体から火が出そうなほど恥ずかしかった。

私を支えている腕と、すぐ近くにある胸板。

小柄で細身だけど、やっぱり筋肉はしっかりついている。

残っている酔いと今の状態の緊張で、心臓が速い。



――と同時に、不思議に思う。



なんだろう……違和感を、感じた。


この感覚、何故か身に覚えがあった気がした。

何故だろう、と思った途端、生じる頭痛。

酔いのせいか、はたまた別の理由か……分からないけれど、とにかく頭が痛い。



「どうした?」



いきなり黙った私を心配してか、リヴァイが問いかける。

彼を再び見上げた。

なんで、こんな違和感を感じるのだろう。



「いや……大丈夫、ありがとう」



リヴァイは眉を寄せる。

私の言葉を信じてないようだったけれど、彼はそのままベッドへ足を運び、私をゆっくり下ろした。



「とりあえず寝ろ。分かったな」



有無を言わせない言葉。

でも感じる優しさ。

昔の私も、この人に惹かれたんじゃないだろうか。

そう思いながら、少し楽になった私の体は、いつの間にか眠りへと入っていった。













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あきゅろす。
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