15
緊張が走る。
高鳴る自分の鼓動と、頬に集まる熱。
目の前のリヴァイは、切れ長の目を伏せている。
私は緊張して、彼の口から出る言葉を待っていた。
胸が狭まって、苦しい。
そしてついに、彼が口を開いた――。
「……クソッ、負けだ」
その言葉に、私はガッツポーズをする。
リヴァイは舌打ちをし、手に持っていたカードを投げ捨てた。
先に勝ち抜いていたハンジが、グラスに並々とワインを注ぐ。
「さあリヴァイ! グイッといこうじゃあないか!!」
一気! 一気! と、私とハンジは彼をまくし立てる。
リヴァイはそんな私達を横目で見ると、それはもう男らしく飲み干した。
彼の頬が、ほんのり色付いている。
かくいう私も、頬にかなりの熱が集まっていた。
ハンジは顔全体が真っ赤だ。
「よーし! 次のランウドいこう!」
お酒のおかげで、だいぶハイテンションな私の声が部屋に響く。
生活感のないような整頓された部屋で、飲み出して早3時間。
いつの間にか始まったカード勝負は、回数と飲酒量が増すごとに盛り上がりを見せていった。
床に散らばるカードをかき集め、負けた人がカードを切るんだよ、と言ってリヴァイに渡す。
彼は座った目で睨んでくるけど、しぶしぶカードを切り出した。
今に至っては彼に睨まれても全く怖くない。
「……おい、てめぇここがどこだか分かってんだろうなクソメガネ」
慣れた手つきでカードを切りながら、何かに気付いたリヴァイはハンジに言った。
ハンジを見ると、彼女は空いたボトルを並べている。
そして手は止めず、ヘラッと笑いながら答えた。
「どこってそりゃあ、潔癖症のリヴァイさんのお部屋ですよ」
「分かってんなら汚すな」
「分かってるから、こうやって空いたボトルを並べてるんじゃないか。ちゃんと秩序良く」
「一列に並べるな一列に。袋に入れておかねぇと削ぐぞ」
「あはははっ! リヴァイの口癖出ました!!」
「てめぇ…」
アルコールで理性を失いかけているハンジは本気で楽しんでいるし、リヴァイは本気で怒り出しそうだ。
それもそうだろう。
何故なら、ボトルが空くたびリヴァイが袋にまとめていたものを、ハンジがわざわざ出して並べているのだから。
かろうじて残っている私の理性が、二人を止めに入る。
「まあまあリヴァイ。ほらハンジ、一緒に袋に戻そう」
そうハンジを促し、ボトルを片付ける。
リヴァイは本日何度目かの舌打ちをした後、カードを切る手を速めた。
空ボトルを片付けながら、それにしてもずいぶん飲んだな、と実感する。
この3時間でかなりの量が空になった。
それもそのはず、始まったカード勝負は、負けた人が一気するという仕組みになっていた。
おかげでボトルの空くスピードは早く、さすがの酒豪達も酔いが回る。
「それにしても、エルヴィン、遅くないかい?」
若干呂律の回っていないハンジが言った。
買い物の後エルヴィンもこの飲み会に誘い(遠慮しいが表に出そうになったけど頑張った)、仕事が終わり次第参加するという返事をもらった。
やはり多忙な彼は、まだ仕事が終わらないらしい。
「そのうち来るだろ。続きやるぞ」
リヴァイはカードを配る。
最初はリヴァイの勝ち星が続いたけれど、酔って頭が回らなくなってきたのか、3人が互いに良い勝負になってきた。
配られた手元のカードを見る。
あまりいいカードが無い。
まさか、リヴァイの策略だろうか。
思わずそう思ってしまいそうなカード揃いだけど、それを悟られまいと顔を引き締め、第何ラウンドかが始まった。
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