01
ああ…空はこんなにも青かったのか、と今更ながら気付く。
壁外の空はこんなにも青く、澄んでいる。
流れる雲を目で追った。
背中に感じる土や草の感触も、肌をなでる風も……全てが、心地いい。
近くに仲間の亡骸があるはずなのに、そこら辺には血や巨人の骸から発する蒸気の臭いが立ちこめてるはずなのに、
さっきまで、呼吸するだけで激しい痛みを感じてたというのに、
何も感じない。
ただ感じているのは、自然に包まれている感覚だけだった。
壁で仕切られた、箱庭のような世界じゃなくて。
仕切のない、壮大な自然の中で。
だんだんと、体が自然と一体化していくような感じがする。
地面から振動が伝わるけれど、もう恐怖なんて感じなかった。
仲間をたくさん失ったけれど、涙はもう出ない。
今から私も、みんなに会いに行くのだから。
そう思ったら、不思議と悲しくはなかった。
彼らには、また会えるのだ。
ただ──
ただ、あの人にはもう会えないと思うと、目の奥が熱くなった。
目を閉じて、彼の顔を思い出す。
浮かぶのは、眉間に皺を寄せたいつもの不機嫌丸出しの顔。
思わず、自分の口角が上がるのを感じた。
もっとたくさん、話したかった。
鬱陶しがられても、怯まず絡みに行くんだった。
もっと、素直に自分の感情を出せば良かった。
そんな後悔をしながら、だんだんと意識が遠ざかる。
──***
彼の少し低い声が好きだった。
──おい
どんなに吐かれる言葉が汚くても、その声だけはストンと胸に落ちるような感じだった。
──***、てめぇ
今思えば、罵られてばかりだったな、なんて思い出す。
ああでも、最後に罵りでも何でもいいから、直接聞きたかったのに……
「おい、聞こえてんなら起きろ!」
いきなりクリアに聞こえた声に、反射したかのように瞼が開く。
微かに霞む視界。
映ったのは広がる青空……ではなく、さっきまで思い返していたその人の顔だった。
「……、……ぇ」
「! ……チッ、こんな所で寝てんじゃねぇ」
見間違いや聞き間違いではなかった。
本人が確かにそこにいる。
いつもの、あの不機嫌そうな顔で。
「おい、俺が分かるか?」
「……ぅ」
「撤退だ。傷は我慢しろ」
そう言いながら、彼は私を持ち上げた。
感じる浮遊感に加え、傷口が思い出したように痛覚を刺激する。
あまりの痛さに、思わず息を呑んだ。
その痛さは、まるで生を主張しているかのようで。
……リヴァイ
声に出してその名を呼びたいのに、言葉が上手く発せられず、代わりにうめき声が口から零れた。
リヴァイはそれに気付いて私を見る。
その瞳に普段のような鋭さはなく、今まで見たことのない、心配の色を含んだ眼差しだった。
ごめんなさい、と謝りたいのに、助けてくれてありがとう、と言いたいのに、体全体を襲う痛みが邪魔をする。
「無理に喋るな。話なら着いてから聞いてやる」
だから死ぬんじゃねぇぞ。
前を向きながらそう言うリヴァイの姿が、涙で滲んだ。
まだこの世界で過ごす事が許されるなら、今度は悔いのないようにしたい。
そう思っていたのに、私は──
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