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第6話



ツナの跡を追ってみるものの、追い始めたのが遅かったためかツナの姿は見つからなかった。

人の行き交う商店街に目を走らせながら足早に歩く。

学校帰りの学生、犬の散歩をしている人、買い物に来ている人……その中にツナの姿は見当たらない。

大きく息を一つ吐いた。
冷たい空気が、早歩きをして上がった体温を落ち着かせていく。

僕はツナの跡をつけてどうするつもりだったのだろう。
いや、別にどうするつもりもなかったのだけれど。ただ、ツナの行動が気になっただけ。

でも、これじゃまるでストーカーだ、なんてふと思う。

行動が気になったから、跡をつけてきただなんて。

そう思ったら一気に気持ちが焦り始めた。
ツナの行動は気になるものの、つけてきたことがバレた時を想像するとそれどころじゃない。

どっちにしろツナは見つからないのだし、とりあえず帰った方が良さそうだ。


足の速度を落とし、隅々まで見回してみるも、やっぱり視界に見慣れた姿は捉えられず。

家に着いたらメールでもしてみようかな……そう考えながらため息をつき、踵を返そうとしたその時だった。


微かに、耳へと届いた短い悲鳴。


それは、この商店街のざわめきにすぐかき消されてしまったけれど、でも確かに聞こえた気がした。

この辺りにある、建物の裏の方から。

無意識に息をひそめ、悲鳴が聞こえた方へと視線を向けた。
耳に神経を集め、些細な音も聞き漏らすまいとするも、もう悲鳴のようなものは聞こえない。

気のせいだったのだろうか。でも胸のざわつきが治まらないのは、そうは思えないからだ。

きっと、どこかにこの裏側へと続く道があるはず。

危険だと思った場所へは近づかない。
それは小さい頃から言われてきたことであり、当然のことなのに、足は裏へと続く道を求めて歩き出す。

脳裏にちらちらとツナの顔が浮かんだ。
そこまで甲高いものじゃなかったそれは、男性の声に思える。


もし……もし、あの悲鳴がツナのものだったら?


そんな考えが浮かび上がり、大きくなる不安が足を急かす。
ツナが向かった方向から、彼がこの辺りにいる可能性は高い。
それがあるから、気のせいかも、と聞こえなかったフリをするのは出来なかった。


少し歩いたところでふと視界に入った、細い裏道の入り口に足を止めた。
知り尽くしていたと思っていた商店街に、こんな死角のような所があるなんて。

なんとなく辺りを見回し、そっと足を踏み入れる。

表の賑やかさとは違い、一気に寂しくなった気がした。




「……の、ファミリーだ」




微かに聞こえた声に足を止める。
息も殺し、じっと耳をそばだてた。

その口調は、決して普通のものじゃなかった。
普通に話している時のそれじゃない。

思わず内臓が震えるような、低く冷たいもの。

身の危険を感じさせるようなその声色に、普通ならここで引き返す。
でもそれを僕にさせないのは、その声に聞き覚えがあるように感じたから。


……まさか、そんなはずがない。

あんなしゃべり方を、彼がするわけない。


そう思いながらも心の奥では、でも、と反論する自分がいる。
一体、何年彼の声を聞いてきたというんだろう。

足は自然と前へ進み始めていた。




歩みを進めるにつれ、音が明瞭に耳へと届く。
何かがぶつかるような、鈍い音が数回。
途中、罵るような声と、その直後にまた鈍く低い物音。

完全に危険な領域に居ることは、既に分かっていた。
恐怖で呼吸が速くなる。
でも、胸の内で否定できない可能性が足を動かす。


だって、さっきのあの声は、




「もう二度と近づくな」




今度こそはっきり聞こえたその声は、もう間違えようがなかった。

しゃべり方は違うし声のトーンも違う。


でも声そのものは思った通り、幼なじみのそれだった。


「…ぐ……は…なせ…」

「彼女はただのクラスメイトだ。特別な関係じゃない」

「……っ、くるし…」

「今後一切オレの周りを嗅ぎ回るな。少しでも危害を加えたりしたら……分かってるな」


どさり、と倒れ込むような音。

体が、動かない。


「お前らのボスによく伝えておけ。次はない」


足音が、だんだん近づいてくる。

ヤバい、と頭では思っていた。
ここに居ると必ず見つかってしまう。

見つかってしまってはダメだ。
ここでツナと鉢合わせてしまうと、絶対にダメなのに。

なのに、体が動かない。

まるで金縛りにあったかのように、僕の意識と反して動いてくれない。


そして僕の目には、まるで別人のようなツナの姿が映った。


今まで見たことがないような鋭い瞳で一瞬射ぬかれ、体が竦む。
でも次の瞬間、僕を認識した彼は驚いたように目を見開いた。


「な……六銭……?」


僕の名前を呼んだ口調は、僕がよく知ってるものだった。


それは嫌でも彼が幼なじみのツナであることを示していて、僕は無意識の内に走り出し、その場を逃げ出した。


『彼は、ボンゴレファミリーというマフィアのボスですよ』


骸くんのあの言葉は、冗談なんかじゃなかったなんて。











2010.03.21.



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