冷たいキス
白骸/暴力表現有/死ネタ
「またここから逃げようとしたでしょう――骸君」
笑みを浮かべたまま、白蘭は自分の足元に跪くように膝をつく骸を蹴り上げる。その度に苦痛で呻き声が口から漏れる。
容赦なく降り注ぐ暴力の雨。
元はと言えば、骸がこの何もない部屋から逃げようとしたのが原因だった。
骸はまだ残していた力を振り絞って、部屋から逃げるつもりだった。しかし運悪く白蘭に見つかってしまい、こうして今に至る。
せめてランクが高いリンクや、ボンゴレリングさえあれば、何とかできたはずだったのだが。
乱れる息を吐きながらゆっくりと彼を見上げた。
表情は笑っていても目元が笑っていない。
これは本気で怒っている証拠だ。
「言ったよね骸君。この部屋は特殊な結界が張り巡らされていて、しかも光や電気の波、あと細かくいうと信念のたぐいも通さないってさ」
「…試しただけですよ」
「また同じ手で?」
「…!」
「前もこんな感じで逃げようとしたでしょ?だから骸君はダメなんだよ」
また足が振り下ろされた。
「でもどうしてかな。骸君は僕の事が嫌いなの?」
冷たくなった骸の顔に彼の黒い影がかかった。
そして何粒もの涙の雫が彼の頬に零れ落ち、床へと流れ落ちる。
ポタ、ポタ、ポタ…。
綺麗な透明色の涙が、どんどん鈍い色へと変わっていく。
これで、もう終わりなのだろう。
彼が死んだのも、自分が誰かの為に涙を流すのも。
白蘭の顔がひどく歪み、また涙腺を越え、溢れ出した。
愛情なんて、どう注げばいいか分からなかった。
君が好きすぎて、いつか壊してしまいそうだって思っていた。
でもなるべく手を伸ばさすに我慢したんだ。
君が何も抵抗しなければ。
けれど骸君は、
決して僕に心を許さなかった。
だから何度も僕から逃げようとした。
君の心は、僕には傾いていなかったからね。
最後まで抵抗した君へ、
最後の最後まで、
君を愛せなかった僕へ、
愛なんて結局は汚いものだと分かった。
綺麗なんて、夢見るものしかないんだって分かった。
また君に恋する時は、
今よりもずっと君を幸せにしていたいな。
END***
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