○
「わりぃ、無理。」
言った俺の声は、不機嫌でも優しくもなく…。
とても無情なものだった。
涼介は俺の事が好きだ。
俺は好きじゃないけど。
でも付き合っている。
それなのに俺は浮気。
涼介はいつだって見て見ぬフリ。
『けんと…っ、今日だけでいいから、』
自分でも理解出来ない。
もう何もかも全てが嫌で、苛ついて…。
壊したいのに壊せない。
『けんと、』
涼介の声に心が痛むだなんて気の所為だ…。
俺は『壊す為』に涼介を退けているだけで…これで良いはず。
これがいつも通りなのだから。
──俺の望んだシナリオ通りだろ?
そう頭で考えて、これが正解だと自分でも分かってるんだ。
『ねぇ、けんと、』
だけど、本当は違う。
退けたのはそんな為じゃない事に気付いてしまった。
『壊す為』ではなく。
本当は、涼介が俺を呼ぶ声をずっと聞いていたいと思ったんだ。
違う。
こんなの違う。
どれだけ否定しても「無理」だと言った時の心情は、やっぱりそれだった。
涼介が俺に我が儘を言って求めてくれたのは初めてで…。
涼介の声をこんなに近くで聞くのは久しぶりで。
「今日は無理だから。」
分かってる。
本当は愛おしいんだ。
俺が拒めば、もっと求めてくれる涼介。
俺の名前を呼んでくれるその声が愛おしい。
ずっとその声を聞いていたいと思った。
何度でも、ずっとずっと聞いていたい愛おしい声。
─…一度想うと止まらない。
感情が溢れ出し、胸が締め付けられる程苦しくて…どんどん熱くなっていく。
「…じゃあな。」
『けっ…────』
今までと違う感情に混乱する。
俺は、電話を切った。
この時気付いていれば、こんな事にはならなかったのに。
俺は涼介の『本当の声』に気付けなかった…。
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