○
──…珍しい。
コイビトになる前はメールも電話も頻繁にしていた。
しかし全寮制に入ってからは、部屋でも教室でも常に一緒。
お互い共有する時間が増えた分、連絡を取り合う機会が自然に減ってしまっていた。
だから涼介からの電話なんて久々で…普通に驚いた。
「出なくていいの?」
「………。」
電話に出ず、ただぼーっと携帯を見つめる俺に由希が言う。
「……じゃあ、僕はもぉ帰るねぇ。謙人くんおやすみ。」
自分が居たら出にくいだろうと気を利かせてくれたのか。
ここを立ち去る由希。
その後ろ姿を見届けながら、急いで通話ボタンを押した。
「………何。」
──…第一声で「何」はないよな…。
不機嫌な声が出てしまった事に少しだけ苦笑いを零す。
きっとそんな声が出たのは、涼介との電話が久しぶり過ぎて変な感覚がしたからだ。
『…けんと。』
涼介の声が聞こえる。
『けんと。』
「…………なに?」
今度は。
今度は優しい声が出た。
何でか分からないけど、自然に出てきた…。
『…けんと、謙人。お願い、帰ってきてよ。』
切なそうな声が電話越しに届く。
精一杯絞り出したような…そんな声。
『謙人、一緒に居て?』
涼介のその声が耳元で響き、何故か俺の心を揺さぶった。
『けんと、お願い。ひとりはヤダよ。さみしいよ。一緒にいたい。‥帰ってきてっ…、』
切なそうに。
泣きそうに。
愛おしそうに。
涼介が言う。
─一緒にいて、と…。
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