これ以上の錯乱はない

謙人は教室でも浮気をする。

誰かが腕を絡めてきても、ベタベタ触ってきてもそのままだ。

そうやって俺に見せ付けて、俺から別れを切り出すのを待っているのかもしれない。

そう思うと、心がズキズキ痛んだ。



「涼介…。」

「……。」

「…ほら見ろ。アイツに浮気されてるじゃん。最初から無理だったんだよ。」



そう言う秀明に、俺は何も言い返せない。

目の前には、浮気を続ける謙人の姿があるから‥。



「涼介…。お前が言えないなら、俺が言ってくる。」



眉間に皺をよせ、謙人の方を見ながら言う。

秀明は怒っているようで、今にも殴りかかりそうな雰囲気が伝わってきた。



「それはダメ。」

「何でだよ。こんな風に…見せ付けるみたいな事されて、酷すぎるだろ。」

「…だって、文句言ったら、…別れようって言われるかも……」



秀明が俺の事を思って、心配して言ってくれているのは嬉しい。

だけどもう決めたんだ。

我慢するって……。



「別れろよ。奥野と居たって涼介がツラくなるだけだ。」

「‥絶対無理。」

「無理するな。」

「無理してないよ。ツラくもない。」



全部嘘。

こんなの強がりだって分かってる。

それでも謙人が必要なんだ。



「秀明、ごめんね。」

「………。」

「大丈夫だから、謙人には何にも言わないで。」



出来ればソッとしといて欲しいと俺は思った。

だけど秀明は、全く納得がしていないような表情をしている。

まだ眉間にも皺が寄っていて、何だか怖い。



「…じゃあ、そんな悲しそうな表情するなよ。大丈夫って顔してねぇ。」



そう秀明は言って、自分の席に戻っていった。



「……俺は…大丈夫だよ。」



大丈夫。

自分に言い聞かせる為に、何度も何度も「大丈夫」と頭の中で唱え続けた。



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あきゅろす。
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