○
「帰れ。」
「……へ?…けんと、くん?」
「今日は帰れ。な?今度相手してやっから。」
「…何でぇ?まだ、」
「さっさと帰れよ。」
低い声を出して言うと、相手の「分かった‥」という小さい返事が返ってくる。
「じゃあ…ね。」
「……。」
着崩れた制服を直し部屋を出て行く相手の姿を見届る。
そして俺は素早く隣の部屋へ行き、扉をソッと開けた。
『お前の事好きじゃないから、別れて。』
全てがシナリオ通り。
言って全てが終わる。
はずだった。
ベッドの上で膝を抱え、小刻みに震える涼介。
それは予想以上の姿だった。
それでも俺は言わなくてはいけない。
『別れよう』
関係を壊す為の一言を。
「涼介……ごめん。」
言えなかった。
変わりに「ごめん」と言って涼介を強く抱き締めていた。
何度も謝って最後に出たのは言い訳。
「ごめん、さっきのは違う。俺にはお前だけなんだ。‥もう、しないから…。だから涼介。なぁ、泣くなよ…」
情けない声が出る。
言い訳なんてしなくて良いのに。
これは俺が待ち望んで作り上げた結果なのに。
なのに、
震える涼介を見ただけで体が勝手に動いていた。
一回り小さい涼介を抱き締めながら何故か泣きそうになる。
「ごめん。」
泣いて俯く涼介を抱き締め続ける。
夢中で謝った。
壊れる筈だった関係。
でも俺は涼介を壊せなかった。
──壊せないならどうすればいいんだ‥
訳も分からず
強く強く
ただ涼介を抱き締め続けた。
「ごめん。」
(SIDE:謙人 END)
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