これ以上の演技はない

予定通り付き合い始めて暫くした頃、いつもと同じように涼介と帰ろうとした。

しかし涼介は委員会があるから帰れないと言う。






─チャンス、か。



俺はそろそろ関係を壊してもいい頃だと思い、すぐさま実行に移す。



「なぁ、今時間ある?」



涼介と別れてから、適当な相手を部屋へ誘う。

相手は意図も簡単に俺の誘いに乗り、寧ろ凄く慣れたような感じだった。





名前も知らない相手を抱く。

それは以前からよくあったことだ。

だが今日は目的が違う。

涼介を俺から引き離す為の行為。



薄暗い部屋で荒い息づかいと甘い喘ぎ声が響く。

そんな中扉の向こう側から微かに誰かがいる気配がした。

おそらく涼介だろう。

しかし自分の真下で恥ずかしげもなく声を出し行為に溺れてる相手は全くそれに気付いていない。


──都合がいいな。


俺がそう思って間もなく、ゆっくりと扉が開いた。

薄暗い部屋に少しだけ電気の光が漏れ入ってくる。

それを確認し、待ってましたと言わんばかりに俺は決められていたセリフを吐いた。



「…アイシテル。」



心から思ってない「アイシテル」という言葉。

俺はちゃんと言えただろうか?

少し不安になり心配してみるが相手は本気で信じ込む。

俺に溺れていく様を間近で見て、ただの演技に騙されるコイツに馬鹿じゃねぇかと内心嘲笑ってしまった。

それから涼介を見る。

涼介は大好きな恋人の浮気現場に「信じられない」と言うような表情をしていた。




シナリオ通りに進む二人。


─あぁ、これで終わるんだ。


それが愉快でたまらなかった。

緩む口元を抑えきれず、笑ってしまう。

俺はニヤケる顔をそのままに声を出さず言った。



『おかえり、涼介』



立ち止まっていた涼介がようやく部屋を出て行く。

扉の音がしたから多分隣にある自分の部屋に入ったのだと分かった。



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