これ以上の絶望はない
ドクンッと心臓が大きく跳ねる。
「愛してる。」
まるで金縛りにあっているかの様に、そこから動けなくる。
ただ目の前にいる謙人だけを見つめ続けた。
愛しい彼。
幸せな気持ちにしてくれる笑顔。
大好きな声で囁かれる言葉。
その全てが焼き付いていく。
「…うれしいッ‥!僕も、…僕も愛してるよぉ。大好き、大好きだよぉ。」
──なんでっ………。
そこに居るのは確かに愛する人なのに‥
謙人が「愛してる」人は俺じゃなかった。
暫く扉の横で放心とし、立ち尽くす。
するとようやく気付いたのか謙人が俺を見た。
謙人の瞳が俺を捉えた瞬間、謙人の口元が弧を描くようにつり上がる。
笑っているのにとても不気味で、怖いと思った。
「…っ。」
視線が混じり合い、俺は思わず息を呑む。
それを見た謙人が不敵に微笑み、そして声に出さず『いつもみたい』に言ったんだ。
『オカエリ、リョースケ』
それを合図に硬直していた体が速く動いて、無意識に隣の自分の部屋へ向かっていた。
何で?
何が起こった?
謙人の隣にいた人
……誰?
自分の部屋に着いた瞬間、ベッドの上で壁を背もたれにして座り込む。
そんなに長い距離を走った訳でもないのに、呼吸が荒れている。
心臓もバクバクとうるさく鳴っていた。
「………。」
瞼を閉じ、さっきの出来事を思い出す。
自分の恋人が、
…謙人が、別の子に向かって愛を囁いていた。
一瞬だけ見えた相手の子は男の子で。
だけど、男の子にしてはとても可愛らしい容姿をしていたと思う。
瞼の裏に、目の前で行われていた激しい性行為が繊細に焼き付いている。
まるでコイビト同士のような2人の姿……。
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