「別れよう。もう…別れよう。全部止めよう。」



まるで俺が望んでいたシナリオのような展開。

愛想を尽かした涼介が俺から離れていき、俺達の関係が終わる…

それは今の俺にとって、望んでいない最悪な結末。






「涼介…ごめん。本当に、ごめんな…。浮気なんてもうしないから…。別れるなんて言うなよっ…」



俺が全部悪い癖に、必死になって涼介を説得しようとする。

そんな自分の情けない声に、本当に情けないと自覚して、心底呆れた。

でも…不安ながらも心のどこかで信じてるんだ。



涼介は俺の事を好きだから。

凄く優しい子だから。

いつもみたいに、こんな俺も受け入れてくれるって…。



「別れて…くれないの?」

「っ…」

「別れよ…?俺、俺さ…」



息を呑む。




違う。

こんな涼介なんて知らない。

涼介はいつも俺の隣に居て笑ってた。

好きだよ。って伝わってくる程幸せそうで、付き合う事になった時も本当に幸せそうで…。

視線、表情、仕草、全てが好意そのものだった。



なのに…その全部がまるで嘘だった様にしか感じられないなんて……。










「謙人といたら疲れる。」



こんな事を言わせたかった訳じゃないのに…。


涼介のこんな表情…

みたくなかったっ……。




絶望、呆れ、不幸。

笑顔も幸せもない表情。



そこでハッとした。

俺は…涼介の"幸せそうな顔"を何時見たんだ?

最近の涼介は、俺に対して好意的なものを向けていたのか…?



イヤ…見た記憶がない。



幾ら記憶を探っても、引きつった笑顔、無表情、ツラそうな顔…

涼介の幸せそうな顔が見つからなかった。

自問自答して出てきた答えは明らかで、俺が涼介の好意を踏みにじり続けたからそんな風になったのだと、ただただ、後悔の波が押し寄せた。

今更後悔しても遅い。

それでも、涼介の笑顔を奪ったのは紛れもなく俺なのだと、事の重大さを思い知らされる。

一方で、あの時涼介の笑顔を素直に喜べなかった自分が恨めしくて…。

自業自得、なんて似合った言葉が頭に浮かんだ。



全部、俺が悪いのだから…。



「もう話し掛けないでね。俺も話し掛けないから。…今まで通り、謙人は謙人の好きな様にしてていいよ。」



その声を最後に、俺達の会話が終わった。

幾ら探しても見つからない言葉に焦りながら、結局は部屋から追い出され、目の前の扉が閉じた音で錯覚する。

まるで俺達の関係を閉ざす様な、もう一生戻れない、深い隔たりが出来たような…現実を突きつけれた瞬間だった。



「りょ、すけ…」



この薄い扉の向こう側にさえ届かない小さい声。

俺は、涼介の優しさに甘えてばっかりだった。

どんな俺も受け入れてくれる。

俺の事が好き。なんて自意識過剰になって。



全部限界があるのに…。



悲しくて、涼介に拒絶させた事が悲しくて、らしくもなく、ジワリと涙が零れ落ちた。



俺が悪い。



全部俺が…。


ずっと描いてきたシナリオの、俺自身の最後には『後悔』しか残っていなかった。



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あきゅろす。
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