○
自分の部屋に戻ろうとして足が止まる。
あの男との時間を思い起こさせれる場所に入ると思うと吐き気がして、仕方がなくソファーに腰を下ろした。
─謙人、ごめん、ごめん、ごめんね…。
あやふやな思考回路で、浮かぶのは謝罪の言葉ばかり。
あの男に組み敷かれ、絶望して、
だけど…
心のどこかでこのままズダボロに傷ついてしまえば良いと思ってしまった。
まだ謙人と愛し合った事などないというのに‥、傷ついた俺を見て謙人が少しでも振り向いてくれればいいと考えてしまった。
馬鹿だ、確かに俺は馬鹿だ。
それでも次に浮かんだのは、どうしても俺は謙人が好きだって事。
それともう一つ。
謙人に会いたい。
謙人に会いたい。と思ったのは、もう心がはちきれそうな位に弱っていたから。
せめて今だけでいい。
今だけは謙人に甘えてみたいんだ…。
俺は携帯を取り出して、電話を掛けた。
『……何。』
…久しぶり。
凄く久しぶりに謙人の声を聞いた気がする。
昨日も会った筈のに、謙人の声が妙に懐かしかった。
そしてその声を聞いただけで俺はホッと安心し、ただ愛しさだけを感じた。
「…けんと。」
『…………なに?』
「…けんと、謙人。お願い、帰ってきてよ。一緒に居て?」
もう止まらない。
こんな事を言ってはいけないのに、自分では制御出来なくて…
俺は本能のまま謙人を求める。
「けんと、お願いだからっ。ひとりはヤダよ。さみしいよ。一緒にいたい。‥帰ってきてっ…、」
震える声。
切なくツラく愛おしい。
全ての感情にまた涙が流れはじめた。
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