○
─ 逃げないと…!!
「まぁ、嫌だっつてもヤるけどな。」
俺を無理矢理ベッドに押さえつけようとする男。
「嫌だ」と全力で抵抗をするが、力の差がハンパない。
そして、いとも簡単に組み敷かれた。
「お前結構可愛いしイケそうだわ。…楽しませてくれよ?」
男の愉快そうな声が耳元で響く。
─何かが壊れる瞬間だった。
『謙人おはよう!』
『おはよ。…朝から元気だな。』
『うん!』
知らない男に組み敷かれながら昔の謙人を思い出した。
それは何気ない朝の風景。
まだ俺達が付き合う前の、笑顔が耐えない穏やかな日々だった。
──パチンッ!!!
頬を強く叩かれ、現実に引き戻される。
知らない男の冷たい瞳と目が合った。
もう何が現実なのか分からない。
それ程今の現状を受け入れたくなかった。
「何考えてんだよ。」
あぁ、彼氏か?あの絶倫男。
そう言って男は笑う。
──もぅ、どうでもいいや…
下唇を噛み、手の感覚が無くなるくらいシーツを握り締め耐える。
ただ心のどこかで、行為の終わりを願っていた。
「おい。」
「……、」
「お前、もっと抵抗してくれよ。これじゃ無理矢理みたいだろ?」
今更なにを言い出すのか、目の前の男が服を脱がす手を止めた。
無理矢理みたい?
冗談じゃないかと思った。
どこからどうみても無理矢理じゃないか。
「諦めんのマジ早ぇのな、なんか萎えたわ、」
何を言われても、俺の心に響くことはない。
例え相手の体力を奪うだけの行為を強要されたとしても、俺の心を支配するのはいつだって彼一人。
謙人だけ。
こんなに
こんなに裏切られ続けても謙人が好きなんて…。
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