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俺は顔を上げ、扉を見た。
謙人が帰ってきた。
それだけで嬉しくて急いで立ち上がる。
と同時に、個室の扉がゆっくり開いた。
「こんばんわ、りょーすけくん?」
入ってきたのは知らない生徒。
謙人じゃなかった。
「だれ……?」
「ん〜、誰だろうなぁ。っていうか扉開いてたんだけど。ちゃんと鍵閉めなきゃ駄目だろ?」
言ってその生徒は近付いてくる。
ニヤアと笑うその顔に、嫌な予感がした。
「実はアンタの彼氏に俺の大切な人を取られちゃってさぁ?」
「…え…な、んで、付き合ってるって…。」
謙人との事は、俺と謙人、秀明しか知らない筈…。
秘密にしてきた筈のに……
何故かそれを知っている男に青ざめる。
何故バレてしまったのか、見当もつかない。
「たまたま涼介君の教室に行った時にな、前島君と話してる所聞いちゃったんだよなぁ。」
「……。」
しまったと思った。
まさか聞かれていたとは思わなかった…。
「誰にも…」
「誰にも言わないよ?…それでさ、涼介君、」
尚も近付いてくる男。
男が近付いてくる度自然と後退っていたが、暫くしないうちに壁にぶつかる。
そのまま壁に強く押さえつけられ、逃げ場がなくなった。
「俺と浮気しちゃう?」
笑みを強めた男に、ゾッとする。
笑っているのに目は冷たくて、金縛りにあったように動けなくなった。
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