「そいつ誰だ。涼介を襲った奴、誰だよ。」



自分の事を棚に上げて、唸るように言う。

自分が事の原因を作ったと分かっていても、ソイツを殺したい程憎くて仕方がなかった。



「それは、言えない。」

「、…言えよ。言え!!」

「い、言えないよっ…、それに謙人君‥、知って、どうするのっ…、」



何を思ってなのか、男の名前を言うのを拒む由希。

俺が名前を知ってどうするかって‥


そんなの…─






「殴り殺す。」



自分ですら、自分のこんな声は聞いた事がなかった。

だけど俺は真剣だった。



「だ、め…尚更言えないっ…」

「…さっさと名前言え‥」



まるで脅すように詰め寄ると、由希は青い顔をして後退る。



「これ以上、誰も傷付けなくないっ…。名前言ったら…謙人君は殴りに行くんでしょ?それが大事になったらどうするの?裡君が襲われたからやり返しましたって言うの?そしたらまたっ…、また傷付くのは裡君なんだよ、」

「…っ‥でもっ…!」

「謙人君、裡君の事を想ってるなら…これ以上は……」



由希の言っている事は正論だった。

感情任せに問題を起こして、それで一番傷付くのは涼介で…。

なのに俺は、









──ごめん涼介。

涼介を傷付ける選択ばっかりして…。



何で俺はこんなにも…─



「謙人くん。ごめんね、名前言えなくて……代わりに僕が殴っておいたから…信じてもらえないかもしれないけど、もうそんな馬鹿な事しないってアイツも反省してたから…」

「反省…」

「うん…」



言葉で聞くだけなら、反省なんて軽いものだ。

だけど今はその言葉を信じるしかない。

俺かって今までで、散々口任せに嘘ばっかり吐いてきたんだから‥ー



俺が後悔しているように、由希も、ソイツも…



後悔しているだ…ー。



「由希、俺…涼介のとこ行ってくる。」

「…、……謙人くん。」



部屋から出ようとしたら声を掛けられた。

振り向くと小さく微笑んだ由希が、見たことのないような儚い表情をしていて…。



「バイバイ。」



消えそうで小さな声、だけどそれはハッキリと俺の耳へ届いた。



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