○
「でも、でもね、未遂らしいんだけど・・、」
子供みたいに泣きながら震える声で話す由希を目の前にして、一瞬時が止まった様な気がした。
─うっすらと笑んだ白い顔に赤く腫れている頬。
真っ赤な目。
両手首の手形。
首についたキスマーク。
涼介が俺を拒み始めた日に見たあの痛々しい姿や、怒りを覚えた"誰か"のキスマークを繊細に思い出した。
「ごめんね、僕の所為でっ…僕何にも知らなくて、本当は裡君に謝んなきゃいけないんだけど……僕の所為だって思ったら怖くてっ、…ごめんなさいっ、」
泣きながら何度も何度も謝り出す。
そんな由希を見ながら、俺の中で色んな感情が疼き出した。
─涼介が誰かに襲われていた。
俺が浮気なんて下劣な事を続けた所為で…
俺の知らないところでっ…!!
きっと俺を拒んでいるのもそれが原因だ。
なんて事を俺は、なんて事をしてしまったんだ‥!
初めて拒まれた日、涼介は電話を掛けてきて俺に言っていた。
泣きそうな声で「今日だけでいいから一緒に居て欲しい」と、何度も俺の名前を呼んでいた。
──お願い。
ひとりはヤダよ。
さみしいよ。
一緒にいたい。
帰ってきてっ…、
けんと
あんなに‥あんなにも涼介は俺を求めていたじゃないか。
なのに俺は涼介の本当の声に気付かずに…
涼介がどんな気持ちで電話を掛けてきたのかも考えず、一方的に電話を切ってしまった…─。
信じられない、信じたくない。
俺以外の誰かが涼介に触れたなんて考えたくない…
俺だってまだ、キスすらしたことはないのに…ー
「…誰、だよ。」
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