山田行道と日高
「山田行道、最近やけに大人しいと思っていたらまだ懲りてないらしいですね。」
山田行道はある日の放課後、風紀室へ呼び出されていた。
対峙してる相手はバレンタイン以来会ってなかった柿田恭子で、以前と変わらぬ真面目な風貌で眉間に皺を寄せていた。
「何の事だかサッパリ。いきなり何だよ。勿体ぶらないで要件言えよ。」
「じゃあ言わせてもらいますけど、今度は他校の生徒に手を出してるそうですね。」
「はぁ?ちょ、は?」
山田は混乱した。
何故、柿田恭子がソレを知っているのかと。
「…どこからそんな情報きたわけ?前馬鹿にされたお返しに、俺の粗探しでもしてんのかよ、あ゙?」
「……いえ。風紀で他校の生徒と関わりがある子が居ましてね。」
「もしかして……日高経由か。」
そう言った山田に柿田の眉がピクリと動く。
間違いではないらしい。
だから日高は嫌いだと彼女を恨めしく思った。
「正直私には関係のない事ですが‥人として一応の忠告です。人の気持ちを弄ぶのも大概にしないと痛い目をみますよ。」
「関係ねぇだろ。それよりあの口軽女をどうにかしろ。マジふざけんなよ、日高、マジでコロス。」
「…日高は口が堅いですよ。ただ、彼女は友人が多いので相談される事も多いんですよ。最近はアナタ絡みの話題が多くて…今度は私に相談してきたんです。日高は何も悪くない。」
「…信じられねぇなぁ。」
山田はいつも以上にふてくされ、ソファに深く腰掛けた。
日高が口が堅いいやいやは兎も角、学園内で失った信用をせっかく取り戻したというのに…これでは水の泡だ。
これからどうしようかと頭を抱えた時、事の発端である日高真美が入ってきた。
「よう日高、やってくれたなぁ。」
「…私は何も。やったのは貴方でしょ。」
「言いたい事あるなら直接言えよ。マジでタチわりぃわ。ふざけんなよ、なぁ?」
「……山田、ごめんなさい。」
日高にしては珍しく泣きそうになりながら謝った。
いくら強気とは言え普通の女の子だ。
本気で怒る山田の迫力に押されて顔を下へ向けた。
「まぁ、貴方が怒るのも無理ありませんが…毎度毎度貴方の元カノを慰めてる日高の気持ちを汲み取ると、こうするしかなかったんです。」
「…そんなに迷惑かけてたのかよ、俺が。」
「えぇ、まぁ。日高の人脈が広い事もそうですが、彼女は風紀内で相談受付係りなもので…毎日受ける相談の中でも貴方の話題が多いそうです。相談者はリピーターも居ますから、元カノのアフターケアが大変です。」
「あぁ、そう…。」
山田は居心地が悪くなって頭をかいた。
日高ばかりが悪いと思っていたが初めて日高が受け持つ仕事の内容を聞き、責める勢いを無くしてしまった。
これなら、あそこまでしつこく注意してきたのも分かる気がする。
「ふぅ…どちらを責めても仕方ありません。まぁだから、どちらも悪くないと言う事で……。日高、お茶でも煎れるから座りなさい。」
「はい。」
柿田恭子は立ち上がるとお茶を煎れ始めた。
山田と柿田が座る長いソファではなく、日高は一人用のソファに腰掛ける。
部屋を出るか留まるか、山田がタイミングを伺っているうちに柿田がお盆を持って戻ってきた。
カップが三つある。
「委員長。さっき廊下で先生がコレをくれました。」
「そう。じゃあ三人で食べましょうか。」
日高が袋の中からお菓子の詰め合わせを取り出す。
山田は少しムスッとしながらもお菓子の一つに手を伸ばした。
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