山田行道と優一
二人は最後、定番の観覧車に乗った。
日も落ちて空は真っ暗。
頂上へ近づくに連れ、少しずつキラキラした街の灯りが見えてきた。
「緊張してんの。」
「…別に。」
─ 嘘ばっかり。
呆れたように優一を見る。
ここでも二人は並んで座り、そしてまた、優一が山田を意識している事はバレバレであった。
「なぁ、嘘ばっかりついて苦しくないか。」
山田は問い掛けた。
恭子の時は好きだった嘘吐きな性格も状況が違えば問いただしたくもなる。
照れを隠す嘘と人を騙す嘘では訳が違うのだ。
今見ている仕草が嘘だとは決して思わないが、それを受け止めるにはただただ余裕がなかった。
何が正しいのか分からずイライラだけが募る。
「苦しい、…」
「そうだよな。お前、バレた時の事とか考えてなかったのかよ。」
「なにも…考えてなかった、」
「馬鹿だな。」
「っ‥、最初はただ…恭子としてでも山田と居れる事が幸せで…」
「俺の事好きだから?」
「…気付いたら好きだった。恭子は完璧で、恭子になれば大丈夫だっていう安心感がいつもあって…だから辞められなかったんだ。恭子でなら山田が一緒に居てくれるって思ってた。」
ポツリ、ポツリと、優一の本音が分かる。
「なのに、山田はいつの間にか俺としても一緒に居てくれて…本当に嬉しくて、だから苦しかった。欲張って…日高に恭ちゃんなんて呼ばせて、どっちの自分も欲しかったし手放したくなかった、山田が好きだからっ…」
彼はきっと、本当の自分と憧れの狭間で苦しんでいたのだ。
今までずっと、そうだったに違いない。
「苦しくて苦しくて…気が付いたら引き返せない所まできてた。本当に…ごめんなさい。騙して、ゴメン、」
優一の涙ながらの謝罪を聞く。
山田は何て言えばいいのか…、よく分からない気持ちになった。
今まで謝罪は幾度も聞いた。
日高真美、柿田恭子、柿田優一。
反省しているのはよく分かった。
陥れたかった訳じゃないのも分かった。
優一の‥山田への想いが紛れ込んでいたからこそこうなったのだと知っている。
「言いたいのはそれだけか。」
「え…?」
「今日は、チャンスなんだろ。お前はどうしたいの?謝罪は聞き飽きたんだけど、」
「っ…こんな、こんな嘘はもう吐かない。これだけは嘘じゃない!俺は…恭子としての俺じゃなくて"柿田優一"をちゃんと見て欲しい。」
顔を上げた優一。
彼の綺麗な顔に一筋の涙が零れた。
精一杯の気持ちが山田にも伝わってくる。
「前にお預け食らったし。」
「え…?」
「キスするか。」
"期待を最大限に上げて落とす"
未だにそんなことを考えて…。
山田は顔を傾けた。
一瞬、二人の唇が重なる。
山田が顔を離していくと、驚いた表情の優一が今までが比じゃないくらいの勢いで泣き出した。
「…嫌だったか。」
「…ち、ちがっ、ビックリ、してっ、」
優一がこんなに泣くのを山田は初めて見た。
「今まで苦しかった、けど…嬉しくてッ、…俺、山田が好きなんだ、ずっと、好きだった、」
優一は泣いた顔を隠さずに。
「今、幸せだ。」
心の底から嬉しそうに笑った。
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