山田行道と優一

休みの日、二人は待ち合わせた。

チャンスというからにはデートと呼ぶべきなのか…そんな事を考えながら約束の場所へ向かった。


「…はよ。」

「……おう。」


山田は一瞬驚く。

『恭子』でも本物の恭子でもなく、そこには普段通りの優一が居たからだ。

てっきり恭子として来ると思っていた山田は拍子抜けしてしまった。


「そのままで良いのか…手も繋げないぞ。」

「ッ…俺は、俺だから!」


優一が歩き出す。

その言葉に意志の強さを感じた。

『俺は俺』

どんな身なりをしていようとも山田が愛した相手である事に変わりはない。

そう言いたいのだと、山田は一瞬、唇を強く噛みしめた。





二人は遊園地に来ていた。

どうせなら楽しい場所で、という日高の提案だった。

遊園地なんていつぶりだろう、山田は思う。

久しく来ていなかった。


「どれから乗る?」

「…どれでも。」

「"優一"が決めろよ。」


優一が立ち止まる。

山田が顔を覗き込けば分かり易く、驚いた表情をしていた。


「そんな驚くか?」

「…ビックリした。」

「大袈裟。」


呆れたような山田に唖然とする優一。

何故なら…山田が彼を初めて下の名前で読んだからだ。


山田は決めていた。

今日一日、出来るだけ彼に優しく接しようと。



─ 期待を持たせるだけ持たせて全部終わらせればいい。



実は前もって、こんな浅はかな考えを未だに秘めていたのだ。


「優一、行くぞ。」


山田は優一の頭をポンっと叩いた。

彼の肩が跳ねる。

横目に優一を見れば、嬉しさを噛み殺すように隠れてはにかんでいた。

それこそ、しっかりとした表情までは視界に入らなかったが…ー



「次ジェットコースター乗ろうぜ。」


山田は言った。


「……別のは。」

「…もしかして苦手かよ。」

「…しょうがないだろ。」

「えー、俺乗りたいんだけどー。」


優しくすると言っても優一は優一だ。

"恭子"を相手にするのとは訳が違う。

それなりに意識していても自然にいつも通りのやり取りになってしまった。


「分かった。手繋いでてやるからさ、」

「ッ…ば、馬鹿にするな!頑張れば乗れる!」

「頑張らないと乗れないのか…」

「うるさい!」

「じゃあ決定な。」


呆れつつも山田は優一の肩を掴み引っ張っていった。

少し青ざめた顔をする優一を見て山田は少し微笑んだ。




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あきゅろす。
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