山田行道と姉弟
柿田恭子は風紀委員長という肩書きがあるだけあって、真っ黒な髪の毛の真面目な生徒だった。
だがよくよく見ると目がクリッと大きく、とても可愛いらしい顔をしていた。
普段から眼鏡をしている所が非常に惜しいが、眼鏡をしていても外見の可愛いさが滲み出ているのだから相当元が良いのだろう。
誰もが振り向くようなカリスマ性、それが柿田恭子にはあった。
男女共に憧れる存在として君臨し誰もが彼女を認めていた。
「柿田恭子、恐ろしい奴だ。」
山田は短くなったタバコを踏み潰し、ゆったりマイペースに教室へ向かった。
「遅いぞ山田。」
「…今なんの授業、先生いねぇじゃん。」
「…英語。自習だ。」
山田にゴミでも見るような目を向けるのは、やはり柿田優一だった。
彼を毛嫌いしながらも突っかかるのは流石姉弟という所か。
そういう所もよく似ていた。
「睨むなよ。自習なんだろ?らっきー。」
「…学校なめんな、クズ。」
柿田優一、彼は恭子とは対照的にあまり目立たないタイプだった。
クラスでは基本的に静かでいつも大人しい。
誰かと特別連もうとはせず、いつも一人でいる一匹狼。
その割に口が悪く姉同様正義感があるのか、秩序を乱す山田に何かと茶々を入れる者でもあった。
「黙れよ、可哀想な一匹狼が。」
「フンッ、男子から嫌われてる女っ誑しの癖に。本当に友達が居ないのはどっちだろうな。」
「抜かせ。お前みたいな堅物には女なんて出来やしねぇだろうよ。何だったら女紹介してやろうか?あ゙?」
「悪いが女を泣かせるような男に頼る気はないな。何だったら友人を紹介してやろうか?といってもお前とじゃ挨拶一つで終わるかもしれないがな。」
この通り、山田行道と柿田優一は犬猿の仲だった。
山田は恭子に目を付けられて以降こうして優一にも目をつけられていた。
2人の仲の悪さは恭子以上に知れ渡り、その仲の悪さを知らない者は居なかった。
どこでも喧嘩、喧嘩、喧嘩。
毎日言い合い、むしろ喧嘩をしていない日の方が貴重で最近ではそれが日常化しつつあった。
「柿田の友達?お前に良く似た無愛想なお面でも連れてくるか?」
山田は柿田の顔を見た。
柿田姉弟は顔が良い。
姉恭子のクリクリした大きな目もそうだが弟優一も男にしては目が大きく、大変綺麗な顔立ちをしていた。
ただ、顔立ちに反して人を寄せ付けない何かが優一にはあり、山田から言わせてみれば『損な性格』をしていた。
柿田姉弟は似ているようで似ていない。
「俺の友人を侮辱するとは…最低だな。では言わせてもらうが、お前の紹介する女なんてどうせ対したことのない馬鹿ばっかりだろ。お前如きに釣られるようじゃまだまだだな。」
「馬鹿だぁ?言ってくれるじゃねぇか。だったら」
「いい加減にしなさい!」
未だ熱の冷めそうのない二人に怒声を下したのはクラス委員長である日高真美だった。
日高は茶色の髪を触りながら二人に近付き呆れたように溜め息を吐いた。
「女子が怯えてるでしょ。何時までも子供じゃないんだから、もうちょっと冷静になれないの?」
「…別に、今日はそんなウルサくしてねぇだろ。」
「自分の非を認めなさい、山田行道。それにアナタ達のやり取りでアナタの女好きがクラス中に知れ渡ってるけど良いのかしら。」
「…もう今更だろ。風紀には潰されるし、何やったって無駄。諦めた。お前かって風紀なら分かるだろ。」
山田はふてくされてそっぽを向いた。
日高真美はクラス委員をしながら風紀委員にも所属している。
山田はこの日高が嫌いだった。
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