山田行道の恋人
「休憩。」
山田は優一に近付いて言った。
返ってきたのはホッとしたような表情だったが、すぐさま視線を逸らされた。
優一はグラウンドにそびえ立つネットを背に座り込んだ。
少し間を空けて山田も隣に座る。
意識しないようにしているのが優一から伝わってきて山田は小さく舌打ちをした。
優一が演じる恭子も平然を装うとしていつもバレバレだったからだ。
やはり同じなのだと、ようやく実感が湧いてきた。
無意識に身震いする。
体が、優一の存在を拒否している。
「昨日、恭子に会った。」
「っ…、き、聞いた。」
「よく俺を騙してくれたな。」
「…ゴメン。」
三角座りをした優一が膝に頭を埋める。
威勢のない弱った声だった。
「俺、恭子と別れたい。」
「……ッ、うん。」
「アイツ彼氏居るだろ。流石に二人はマズい。」
「うん、」
優一がズルッと鼻をすすったのが分かって、泣いているだろう事が想像出来た。
「俺、お前らのこと許してねぇから。」
山田は冷たく言い放った。
優一の肩が震える。
泣いているのを必死になって隠していた。
─ 恭子のこういう所が好きだった。
隠したいのに隠しきれていない所だったり、ちょっと抜けた所だったり、全然素直じゃない所だったり。
全部好きだった。
─ 細くて綺麗な指が好きだった。
今は痛々しいくらいに体操着を掴んでいる優一の手。
─ 何かアクションを起こす度にピクリと動く肩が好きだった。
今は小刻みに震え、感情を押し殺している優一の肩。
好きだった。
とても好きだった。
全てが。
もう終わりを告げた。
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