山田行道の日常
山田行道の身に何があろうとも平日になれば登校しなくてはならない。
例えば何かの拍子で学園が燃えでもしない限り決してなくならないのだ。
─ 学校燃えろ。
自身の通う学園にそんなどうしようもない念を送った山田。
勿論願いは叶わず学園が燃えるはずがなかった。
山田は教室の扉をガラッと開けた。
思いの外力が入ったらしく、大きな音にクラスメート達の視線が幾つか突き刺さる。
「勢い付きすぎたな…」
誤魔化すように小さく言えば自然と逸らされる視線。
その中でも不自然に目を逸らす一人の生徒が居た。
柿田優一。
彼を意識するな、という方が無理だ。
別れた彼女を意識したことのない山田でさえギクシャクした心持ちなのだから。
二人は少し離れた席だった。
山田は後ろの方で優一は斜め前の席。
山田は優一を見つめた。
優一が手に持っているのは小説。
しかし読むペースの早い彼にしてみてはなかなか頁を捲らない。
─ あぁ、読むフリか。
演じるのが好きな奴だとその背中を一瞬睨み、山田は机に突っ伏した。
こんな時になって思う。
山田には友達が居ない。
いくら女にモテようが陰ではその事で男子達に嫌われていた。
女子は多少の警戒心を張らしながらも、格好良い山田と話す事をステータスとする節があった。
だが男子は違う。
勿論、中には女子同様に山田を特別視して憧れるような男子も居たが、基本的には女子ばかりと話す女好きだと陰で悪口を叩いていた。
実のところ、幾ら陰であろうが山田本人も自分の評判の悪さについては嫌な程自覚があった。
同学年のみならず、果ては先輩さえも山田を良く思っていない事を知っていた。
『アイツまた注意受けてたぞ、マジざまぁ。』
『山田行道が悪者なら風紀委員長様は正にヒーローってか?』
『つーかアイツ停学にでもなればいいのに。』
『女誑し込んで停学はねぇだろ。つかお前の山田嫌いかなりヤベェな。』
『いやー、俺今まで生きてきた中で一番アイツが嫌いだわ。マジ目障り。』
『ヒッデェ〜。流石のアイツも泣くぜ〜?まぁ俺も嫌いだけどなー。』
山田の知らない所で…
見ず知らずの人がそう言っていたのを聞いた事もあった。
陰ながら聞いても反論しなかったのは『言わせたい奴には言わせておけば良い』と元々割り切っていたからだ。
話す相手が居ない。
こんな状況になって初めて分かる。
言わせたい奴には言わせておけば良い。
この気持ちは未だ変わらない。
ただ、今までそうやって見下していた彼らに有って自分に無いモノの差を痛感した。
自分には話は疎か陰口さえ聞いてくれる友人が居らず、頼れる誰かも居ない。
いつもどうしていたかを考えて、浮かんでくるのは柿田優一、彼だけで。
あぁ、彼は唯一の友人だったのか…と理解して、いつの間にか大きくなっていた彼の存在に気が付いた。
「チッ…」
周りに聞こえない程度の舌打ち。
山田は無理矢理目を瞑った。
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