山田行道の理解

最後まで零さず話を聞いた山田は、そのあまりの内容に絶句した。


「…じゃあ何、バレンタインとか、俺とぶつかった時とか…全部優一なわけ?」


戸惑いながら聞く。

話を聞いていて山田は気が付いたのだ。

恭子はたまに様子が可笑しかった。

変に無口だったり、わざとらしく咳をしたり、何より憎まれ口を叩いていた。


だが本物の恭子は違う。


無口でもないし、わざとらしく咳もしない。

憎まれ口も叩かないから優一のような言い合いにはならない。


「分かんないけど…多分優一の方です。ごめんなさい。」


恭子は本当に、本当に申し訳なさそうに謝った。


「謝って許されると思ってんのか。」

「…いえ。」

「前に風紀室で…日高が俺とお前をデートするようにけしかけただろ。あの時はどっちだ。」

「…あの日は私。実際に行ったのは優一だけど、」


恭子は下を向いて話す。

デートに来たのが優一なのは言われなくとも話の内容から察していた。

やはり、自分は恭子でなく優一と付き合っていた事になる。


改めて考え、山田は身震いした。


男を相手に本気となり、欲情していたのだ。

それも友人だと思っていたクラスメートを相手に。


「流石にやって良い事と悪い事があるよな?分かるか?」


山田は小さくなる恭子に冷たく言った。

女子を相手にここまで冷たくしたのは日高と恭子が初めてだった。


「お前らの生い立ちはよーく分かった。でもなぁ、俺と付き合う話は別だろ。お前らは、お前らの事情に俺を巻き込んだんだよ。なぁ、聞いてんのか?」


再び怒りが溢れ出してきた山田は最後に舌打ちをした。


─ 煙草吸いたい


手持ちの煙草は一本もなかった。

代わりに目の前に置かれた飲み物を手に取り、ストローを噛んで気を紛らわした。




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