柿田姉弟の秘密

恭子と優一は双子だった。

幼い頃から何をするのも一緒で、とても仲の良い姉弟だった。

しかし。

成長するに従って二人には大きな格差が生じる。

姉の恭子は何に対しても抜群の能力を発揮する優等生で、弟の優一は何をしても普通以下の劣等生だった。


それは仲の良い姉弟の、一番大きな溝となった。



優一は昔から恭子に憧れていた。

そして優等生であるはずの恭子もまた、優一に憧れを抱いていた。

そこで二人は陰で協力し合い、足りないものを補い始めた。



正に双子は二人で一つ。



溝が出来たとはいえ、それは見せかけの表面的なものだったのだ。

周囲が勝手に作った格差などただの見せかけに過ぎず、双子の絆は底知れぬ強さを発揮していた。

むしろ格差という評価が強くなればなる程に、連鎖して二人の絆が深くなっていった。


こうして二人は強い絆の元、自分が一番求めているものを手に入れる方法を編み出してはそれを実行していった。


その方法こそが今までやっていた"入れ替わること"である。



恭子は何をやっても褒められる一方で、片割れの優一は何をやっても認められない。

親の期待から逃れたい恭子と、親の期待に答えたい優一は、たまに役を交代してバランスを取っていたのだ。





だが、それには技術と努力が必要だった。

流石に中学生にもなれば体格や顔立ち、声に違いが出てくるもので、そう簡単に入れ替われない。


そこで双子は対策を練った。


幾つか実行したものの一つに、本物の恭子が度の入った眼鏡をかけることがある。

目が少しだけ小さく見せられると言う、とても愚かで必死の策だった。

ただ、眼鏡の使用には他にも利点が幾つかあり、双子の計画には必要不可欠なアイテムであったのも確かで。

何故なら…普段から眼鏡をしていることで、自然と恭子イコール眼鏡という極端な印象を周囲に植え付けられる。

そしてたまに外したとしても、印象が少し変わっただけで『眼鏡がないから違うだけだ』と簡単に相手を騙す事が出来るのだ。

優一が恭子になる時は、大概度の入っていない伊達眼鏡をかけるか、コンタクトのふりをして過ごし、入れ替わりは成功でバレた事は一度もなかった。

こうして双子は努力の末、小さな変化を意図的に作り、なりすましを成功させる為に上手なバランスを取っていたのだ。

他に、互いの声がなるべく近づくよう普段から心掛けたり、恭子の話し方を敬語に統一する事で優一のボロを出さないようするなどの策もあった。


双子は沢山のワザを駆使し、今まで上手に支え合ってきた。


優一は少しでも恭子に寄せていき、その寄せられた優一に少しでも恭子は寄せていった。

こういった経緯で、時に優一は恭子の代役として学校へ行っていた。





当然というべきか、人気者の恭子は中学でも友人が多く、慕われていた。

あくまでなりすましの身である事も、自分に対しての評価でない事も分かっていながら…

優一はなりすましを辞められなかった。

優一は恭子という存在が誇らしかったし、恭子であり続けたかったのだ。


一方本物の恭子はというと…

優一に寄せた軽い変装で外出をしては、たまの息抜きを続けた。

劣等生の優一が休んでいようが何をしようが、問題さえ起こさなければ親は何も言わない。

恭子は恭子で親から解放される一人の時間を自ら望み、優一であり続ける事を常に望んでいた。




だが…。

どれだけ努力しようとも成長は止まってくれず、なりすましの手段も成長と共に尽きていく。

一番の違い、それは声でも体格でもなく顔の変化だった。

元々優一は中性的な顔立ちをしていただけに、運良く性別を誤魔化せる範囲ではあったが、顔の印象が変わってしまったのだ。


一番の違いは目。


大人びた顔の優一に比べ、恭子の顔は童顔に見える。

その違いを恐れた二人は、なりすましが出来なくなる事を察した。

それは双子にとって最も恐れていた事態でどうしようもない事だった。

恭子は座っているだけで周りに人が集まる愛され体質なのに対し、優一は座っているだけで気を使われる不憫な体質。

なりすましが出来ない日が長くなればなるほどに、優一は恭子との差を思い知る。

恭子も、勉強や習い事に追われ、息抜きの出来ないハードスケジュールにストレスが溜まり続ける。


そしてとうとう、崩壊が訪れた。

この状況に耐えきれなくなった優一は、次第に暗くなり外を出るのを止め、自分の部屋に引きこもってしまった。


優一とって恭子になる事が、何よりの生き甲斐だったのだ。

唯一の生き甲斐を優一は無くしてしまった。




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あきゅろす。
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