山田行道の混乱

「山田行道、暫く待ってて。」


恭子はそう言うと少し離れた場所で連れの男と話し出した。

何かの相談か。

少々険悪な雰囲気にも見える。

山田は二人から目を逸らし、苛々と近くの壁を軽く蹴った。

そうして気を紛らわしているとようやく二人が戻ってくる。


「餓鬼、恭子に手出すなよ。」

「馬鹿。余計な心配しなくても平気よ。ほら、後で連絡するから。」

「チッ、分かったって。早めに切り上げろよ、じゃあな。」


連れの男は恭子の頭をグシャッ乱暴に撫でて立ち去った。

山田はその後ろ姿を呆然と見つめる。


「場所を変えましょうか。」


恭子が笑った。





「何かあったんでしょう。」

「……。」

「日高絡みか、それとも優一?」


恭子の質問に山田はふてくされる。

場所は静かな喫茶店だった。


「でも大体予想はついてるの。多分、知ってしまったんでしょう。私達の秘密を。」


そう言うと恭子はきたばかりのコーヒーに手をつけた。

やはり、山田の知る恭子とは全く違う。

彼女はこんなに落ち着きのある人間ではなかった。

山田は更に混乱する。

恭子と優一が同一人物だという事実に頭がいっぱいで、本物の恭子の存在を忘れていたのだ。

どの恭子が優一で、どの恭子が本物なのか。

まるで分からない。


「話は聞きました?」

「…優一が、恭子を演じていたんだろ。」


思いの外、恨めしそうな声が出た。

意識した訳ではない。


「…えぇ、そうよ。昔からそうだったの。」

「……昔から、」

「えぇ。それで…私達の話はどこまで聞きました?何でそうなったのかあの子は話しました?」

「…いや。ホント信じられなくて、ムカついて…だから何も聞いてない。」

「…そう、」


恭子は申し訳なさそうに俯いた。

感情が手に取るように分かる。

これが本物の柿田恭子なのだと突きつけらる。


「何のためにこんな事したんだよ。俺を陥れたかったのか。俺以外の奴にもこんな事してたのか。」

「それは違う。今回の件は…本当にごめんなさい。」

「ゴメンで済む話じゃないだろ?何が目的でアイツはお前を演じてたんだよ。」


山田は恭子を睨み付けた。

未だに何も理解出来ていない。

優一が恭子を演じてまで山田と付き合いを続けた事が信じられなかった。



「…話します、全部。」




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