山田行道の激情
恭子と優一が同一人物であることが分かった山田は苛立ちが治まらなかった。
当然、数時間前に交わした約束など今更眼中になかった。
─ あんな事があったんだ、会う必要なんて‥
山田は約束の校門の前をすり抜けると街へ出た。
苛立ちを抑えるため無理矢理タバコを口に加え火を付ける。
─ 湿気ってらぁ。
恭子と付き合い出してから口にしていなかった煙草は少し湿気ってる。
去年買ったものが鞄の底に紛れ込んでいたのだ。
山田は街中の全てのものが敵に見えた。
あんなに可愛いと思っていた女さえも憎らしい。
好きだった女が一時は犬猿の仲とさえ言われたクラスメートだったのだ。
思い出すだけで身震いする。
結局なんだろう。
やはり自分を嫌う日高や柿田が協力し合って陥れようとしたのだろうか。
─ だとしたら、日高真美、やっぱりアイツは嫌な女だ。
山田は内心悪態を吐いた。
そしてタバコを足で踏み潰すと、荒い足取りで歩き出した。
「ッ…、」
「たっ…、」
周囲を見ていなかった為に山田は人とぶつかった。
そこで少し冷静さを取り戻し、山田は一言謝った。
「スイマセン。」
そう言って顔を見て山田の心臓が跳ねる。
ドクドクと、嫌な胸の高鳴りが山田を支配した。
「…相変わらず…落ち着きがなくて。」
黒くて綺麗な髪の毛。
黒縁の眼鏡。
落ち着きのある話し方。
困ったものだと眉を下げるのは。
柿田恭子。
その人だった。
「恭子、友達か?」
「…いえ、友達と言うより高校の後輩なの。弟と同じクラスの問題児。」
恭子はフフ、と可笑しそうに笑う。
隣の男は連れなのか、急に現れた山田を少し鋭い目つきで見つめていた。
「なんで…、」
「…どうしました?」
「柿田恭子、だよな。」
「…えぇ。今更どうしたんですか?」
恭子は奇妙そうな顔をした。
山田の知ってる恭子と違うと瞬時に分かった。
全然違う。
『恭子』はこんな風に笑ったりしない。
『恭子』はこんな自然に話せる奴じゃない。
『恭子』はこんな穏やかな雰囲気じゃない。
違う。
違う。
あの『恭子』ではない。
「…何か、あったのね。」
柿田恭子はそう言って山田行道の顔を見た。
決して良いとは言えない顔色だった。
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