日高真美の後悔

彼が立ち去り、訪れる。

嵐が去ったような静けさ。

その嵐を作った張本人、柿田優一は冷たい床に座り込んでいた。


「恭ちゃん…」

「………。」


優一は日高の返事に答えなかった。





『恭ちゃんは優一』


日高がそう語った通り優一は恭ちゃんだった。

彼は今まで柿田優一でありながら柿田恭子を演じていたのである。

クラスメートの日高真美の力を借り、柿田恭子との一人二役を演じていた。

しかし優一は決して山田行道を騙そう、陥れようとした訳ではない。

ただ事の成り行きで今の今まできてしまったのだ。


「山田に、バレた…」


しかしどんな理由があろうとも山田の知る由もない。

嘘に嘘を重ねた優一は、とっさの言い訳も出来なかった。

結果だけ言えば山田を騙していたのだから。


「恭ちゃん…あのね、」

「…もう、恭ちゃんなんて呼ばなくていい。もう…お終いだ。」


優一はそう言って涙を零した。

普段表情の乏しい彼は、山田と付き合い始めてから以前が嘘のように表情が豊かになった。

それを日高は知っている。



だから。

泣かないで、とは言えなかった。


「このままで良いの…?」

「…終わったんだ。」

「まだ終わってない、まだちゃんと、話してない!」

「終わったんだよッ!!!」


優一は叫ぶ。

恭子の役になるために着た、女性用の服を強く握り締めて叫ぶ。

その声は悲痛なもので日高は自分がした事を後悔した。



─ こんなはずじゃなかったのに。



日高は思う。

彼女は彼に幸せになって欲しかったのだ。

そう思って手伝っていたのに…結果的には優一を狼少年にしてしまった。


山田行道に酷く悪い事をした。



─ こんな事なら『恭ちゃん』を作らなければ良かった。



今更、後悔の波が押し寄せてくる。


後悔先に立たず。

悔いはいつも後にくる。


何故もっと先を見越して行動出来なかったのか。

壊れた玩具のように泣く優一を見て日高は思った。




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あきゅろす。
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