山田行道の実態

ここ畠山学園は八割女子、二割男子の共学だ。

女子の割合がずば抜けて多いゆえに男子よりも女子の方が権力が上、それがここでの常識だった。

生徒会も風紀も女子で固まり未だ男子が就任した例がない。

いくら上に立つ者とはいえ女は所詮女なのだ。

生徒会や風紀という小さな団体に少数の男子が入ればそれこそ争いの種となる。

この学園内で希少価値のある男子達は女子達の潤いにもなれば厄介な火種にもなる存在だった。





「吉野さん、好きです。」


しかし男子とて立派な狼な訳で…女子がわんさかと溢れかえるこの環境で当然の如く"狩り"をしていた。


「えっ…わ、わたし…、」

「またアナタですね、山田行道。そこのアナタ、確か一組の吉野さん?その男は野獣、嘘吐きビーストですよ。いつまでも頬を染めてないで教室へ戻りなさい。」

「えっえっ!?」

「チッ…またアンタかよ。マジ最悪。これじゃ新しい女できねー。」


嘘吐きビーストと呼ばれたこの男、山田行道は一気にへたり込んだ。


「当然。風紀を乱す者を見過ごせないでしょう」


一方で山田行道を睨み続けるこの女、風紀委員長の柿田恭子と言う。


「お前実は俺に惚れてるんじゃね?」

「寝言は寝て言いなさい。アナタに泣かされた女子がこの一年半で何人居ると思ってるの?毎度慰める私達の身になりなさい。」

「んー?なんの話だかサァ〜ッパリ。」

「…ふざけて。コソコソと上手くやってるようですがいつか刺されますよ。いや、刺されなさい。当然の報いです。」


明後日の方向を見てとぼけてみせる山田を柿田は睨んだ。

柿田は苛ついた余り両手を強く握りしめた。


「俺が天国行ったら線香あげてくれ〜。」

「誰が。それより天国へ行けると過信してるあたり痛すぎて可哀想ですね。落ちるとこまで落ちれば良いのに。」

「おっと、こわー。そんな無愛想だと男にモテねぇぞ。」

「…わかった。私達をとことん敵に回すという事ですね。見てなさい。アナタを地獄に落としてやる。」


柿田はピキピキと血筋を立てながらその場を立ち去った。

残された山田は「やれるもんならやってみろ」とその背中に中指を立てた。





山田行道、彼は学園へ入学した直後、誰も知らないうちに彼女を作った。

しかし二人は誰も知らないうちに別れ山田はまた彼女を作った。


去る鳥跡を濁さず。


その言葉通り上手く恋愛を続けていたのだ。


最近までは。


「クッソ…柿田コロス。」


物騒な事を言ってタバコを吸う。

やってらんねぇと一人悪態をついた。


「山田、もう授業始まるぞ。」

「…うっせ。」

「機嫌悪いな。それよりもタバコ。ここ学校だぞ。それにまだ未成年…」

「るせぇな、勝手に教室行けよ。柿田と同じ事言ってんな。」


山田は小さく舌打ちしタバコを吹かした。

そんな山田に溜め息を吐く生徒、彼はクラスメートの柿田優一。

風紀委員長である柿田恭子の弟だ。


「お前の姉貴可愛くねぇな。ありゃ一生独り身だぜ。」

「…余計なお世話。」

「シスコンかよ。あんな奴のどこが良いのやら。」

「…言って良い事と悪い事があるぞ。」


柿田優一は姉同様、山田を睨みつけその場を去った。

山田を睨むその目が姉の恭子にあまりにもソックリで…あぁ、姉弟だな、と煙を吐いた。



─ 顔だけは良いのに、勿体無い。



オマケにそんな失礼な事まで考えた。




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