山田行道と真相

嫌に長い静寂だった。

その静けさの中に新たな訪問者が現れた。


「恭ちゃーん、メイクだけど、」


山田は入ってきた誰かに顔を向ける。

日高真美。

彼女だった。


「…きょうちゃん?」

「や、まだっ…何で、」


日高は余程驚いたらしい。

見たことがないくらい驚愕の表情を浮かべていた。

しかし山田にしてみればそれどころかではないのだ。

今、日高は『きょうちゃん』と言った。

いつだったか、以前にも聞いた事のある『きょうちゃん』という呼び名。


「…きょうちゃんは、柿田優一、なのか。」

「や、まだ…あのね、」

「説明してくれよ。お前ら、ナニしてるわけ?」


山田行道は、笑いも、怒りもせず、静かに問いただした。

ただ、知りたかったのだ。

現実を理解するには全てが突然すぎるし情報も少ない。

分からないのだ。

目の前の状況が。




「恭ちゃんは…優一よ、」


見たことのない山田の姿に日高の緊張感が高まる。

柿田は相変わらずだんまりと固まっていた。


「なにそれ。恭子は優一だっていうのか?なぁ。」


真相を知った山田は、ふつふつと湧いてきた感情に震える。


優一が恭子。

恭子が優一。


二人が同一人物だとイコールを繋げた瞬間、嫌な程二人の共通点が出てきたからだ。



感情を押し殺す恭子、

優一。


表情をなるべく隠す恭子、

優一。


笑ってから咳払い1つでそっぽを向く恭子、

優一。





─ 俺を睨む風紀委員長





優一








今まで何度似ていると思っただろう。

だが、こんな巧妙に出来ていては気付くはずがない。

恭子の時はメイクでもしていたのだろうか。

最近は目をデカく見せるカラーコンタクトなどもある。

簡単ではないか。

なんて簡単なトリックなんだ。


「こうやって俺を騙してたんだな。」


山田行道はドスの利いた声で言うと柿田優一、彼を睨んだ。


「や、まだ…」

「なぁ柿田、俺を騙して楽しかったかぁ?オイ日高ぁ、嫌いな俺の阿呆ズラ拝めて良かったなぁ、楽しかったろ?なぁ、」


山田は二人に笑いかけた。

そのドスの利いた声と微笑む表情の差に、二人は声を失う。

山田はポケットに手を入れると例の腕時計を握り締め、それを優一へ向かって思い切り投げつけた。


「ッツ…!!」

「……、」


ギリギリ当たらなかったそれに苛々が増しつつ、半分はホッと安心していた。

そして行き場のない感情を近くにあった机を蹴る事で発散し、最後に舌打ちを残して教室を出て行った。




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あきゅろす。
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