山田行道と恭子

『今日の放課後すぐに会って話したい』


山田は授業中、柿田恭子宛てにメールを作成した。

その表情は何処か妙なもので、山田近辺に座る生徒達は気分でも悪いのかと多少気にかけていた。

不機嫌とは言い難い、思い悩んでいるような顔付きで携帯を弄る山田。

声は掛けないものの、何かあったに違いないと生徒らは思っていた。


『分かりました。

何かあった?』


恭子からの返信はクラスメートと同様に山田の不安を感じ取ったような文だった。


『また後で話す、場所は校門前で』


そう打ち込むと山田は携帯を閉じた。




柿田恭子、彼女が好きだ。

だから早く、この不気味な不安を取り除いて欲しい。





放課後。

山田は重い足取りで廊下を歩いていた。

もうすぐ恭子と会える。

嬉しいはずなのに少しだけ会いたくないような…不思議な気分だった。


山田はいつも通らない道をわざわざ選び、人通りの少ない所を歩いていた。

急がば回れ、ではないが。

少しクールダウンをしたかったのだ。


「…柿田?」


山田は少し遠くの方で柿田優一がとある教室に入っていくのを見た。



─ こんな場所。

放課後なのに、珍しい…


不思議に感じた山田はその教室へ向かって歩き出した。

とある教室の前。

柿田優一、彼が居るだろう教室の中を扉のガラス部分からソッと覗いた。

そして。

固まる。

中にいる生徒の後ろ姿が恭子と似ているのだ。

本当に似ている。

とても似ている。



教室内に居る『誰か』を恭子と重ね、いやでも、恭子がここに居るはずがないと、自問自答を繰り返す。

佐藤雪香が言っていたのだ。



柿田恭子は卒業したと。



その恭子がここに居るのは可笑しい。

遠目ではあったが、先ほど見たのは紛れもない『優一』だった。

『恭子』ではない。



山田は中の人物に呆然と立ち尽くしていた。

するとようやく『誰か』の顔が見える。

それを見た山田は反射的に教室へ駆け込んでいた。




「…ッ、」


相手が息を呑んだのが分かる。

その相手、誰かとは…


『柿田恭子』


『柿田優一』


どっちとも取れる風貌をしていた。




「弟、か。」


山田は、消去法で言う。

状況を考えれば優一の線が強い。

言ってから辺りを見ると近くの机に畠山学園の制服が脱ぎ捨てられていた。

スカート…ではなさそうだ。


「訳分かんないんだけど。お前…弟、だろ?なんで、姉貴の服、着てんの?」


柿田が着てる服、それは山田も見たことがある紛れもない恭子の服だった。

ウィッグだろうか、髪型と服装だけ見れば完全なる柿田恭子そのものだ。

しかし顔は。

柿田優一、弟である。



柿田姉弟は顔が良い、目もおっきい。

しかし姉の方が童顔なので一目で弟だと分かった。

その弟が、あの真面目で口の悪い優一が何故こんな事をしているのだろう。



山田はただただ不思議だった。




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あきゅろす。
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